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はじめての中国化粧品ビジネス──NMPAって何? なぜ必要? を、ゼロからやさしく解説する

歴史があり、30年近く続いているという中国美容博覧会。世界中のビューティーブランドが名を連ねるこの場は、日本の化粧品メーカーにとって、もはや頭打ちとなった国内市場の“パイ争い”から抜け出し、新たなマーケットを取りに行くための重要な選択肢になりつつある。そんな背景を踏まえながら、この日のセミナーで僕が最も興味深く耳を傾けていたテーマがある。それが──NMPA(中国の薬事申請)である。

 だから、海外の行政申請を専門にサポートするワールドワイド・アイピー・コンサルティング・ジャパンの田中氏 の講演内容に非常に強く関心を抱いた。具体的には・・・

  • ・各国の化粧品ルールの違い
  • ・中国のNMPAとは何か
  • ・日本企業がつまずきやすいポイント

・・・を、専門知識ゼロでも理解できるように丁寧に説明してくれていたからだ。

1. 海外で化粧品を売るには、“その国のルール” が必ずある

 

 WWIPコンサルティングは、化粧品や食品を海外で販売するための「行政申請」をサポートしている。

 行政申請とは、その国に商品を持ち込むときに必要な“許可”や“届け出”のことだ。

 国によって提出書類の内容やルールはまったく違い、ある国では簡単でも、別の国ではとても複雑な手続きになることもある。特に中国はルールの更新が早く、「去年まで大丈夫だった成分が、今年は禁止になった」ということが起きやすい。そのため、最新の規制を把握しながら進める必要がある。

2. 世界の化粧品ルールは、実は“EUがモデル”になっている

 中国・台湾・韓国・ASEAN──名前だけ聞くとバラバラに見えるが、実はこれらの国や地域は EU(欧州連合)の化粧品規制を参考にした制度 を採用している。EUで禁止成分が変わると、台湾や韓国、中国もそれを見て「自国でも禁止しよう」と判断する。

 だから、海外進出を考える企業は EU規制をウォッチすることが重要 になる。ただし、中国だけはEUの仕組みを“そのまま”取り入れるのではなく、独自の追加ルールを付けるため一気に複雑化する。NMPAが難しいと言われる理由は、この“独自ルール”にある。

3. PIFって何? 台湾やASEANが採用する“備えておく式”のルール

 台湾やASEAN諸国では、化粧品を輸出する際に PIF(製品情報ファイル) という書類の束を作って保管しておくルールがある。

PIFの中身は、

  • ・処方
  • ・原料
  • ・製造工程
  • ・安全性に関する書類
  • など、その商品を説明するためのすべての資料だそうだ。

ポイントはここで、台湾・ASEAN → 書類を保管しておけば、通知するだけで販売できる。つまり、最初の入口は比較的やさしい。問題が起こったときだけ、政府が「PIFを見せてください」と言う。

4. 一方、中国(NMPA)は“出す前に審査がある”という決定的な違い

 ところが、中国のNMPA制度では、最初にすべての書類を出し、政府がチェックして合格しないと販売できない。台湾・ASEANとは真逆の考え方だ。だから中国では、準備→検査→書類審査という一連の流れを、最初にすべてクリアする必要がある。

 特に重いのが 安全性評価 で、「この成分が何%入っていて、それは医学的に安全なのか」を、専門資格を持つ“安全性評価者”が文献を読み込みながらレポートにまとめる。日本にはこうした制度がないため、日本企業には負荷が大きく感じられる。

5. ではNMPAとは何か?──中国で化粧品を売るための“入り口の鍵”

 NMPAは中国の薬事当局の名称で、化粧品・医療機器・医薬品を管理している。一般貿易(越境ECではなく、店頭販売や国内EC)で化粧品を売るには、必ずNMPA申請を通す必要がある。

 申請はすべてオンラインで行い、日本企業だけでは完結しない。中国国内にある「境内責任者」と組んで申請する、というルールがある。境内責任者とは、日本企業の代わりに中国側で手続きを支援する“協力パートナー”のこと。権利は日本側にあるが、この会社の協力なしでは登録ができない。

6. 化粧品は “特殊” と “普通” に分かれる──難しさが変わるポイント

 NMPAでは、化粧品が2種類に分類される。

● 特殊化粧品

美白、日焼け止め、育毛、パーマ・カラーなど“効能が強い”もの。

北京の国家局が審査

→ 動物実験が必要

→ 審査期間も半年〜1年以上と長い

● 普通化粧品

上記以外の一般的な化粧品と歯磨き粉

各省の地方局が審査

→ 5営業日程度で審査が終わることもある

中国ビジネスでは

どちらに分類されるかで準備の量も時間も大きく変わる。

7. 越境ECで人気が出ても、一般貿易に移れないことがある

 こうしたことを踏まえて、考えられる失敗はなにか。それが越境ECと一般貿易の間にある大きな壁である。

 越境ECでは、中国で禁止されている成分が入っていても販売できる。(NMPA登録が不要なため)

 しかし、一般貿易に切り替えようとした瞬間──

  • 禁止成分が入っていた
  • 制限成分に該当していた
  • ポジティブリストにない原料だった

という理由で、販売不可になるケースが本当に多い。

 特に「ヒト由来成分」は中国では原則不可。だからこそ、越境ECをする場合でも、最初に“成分チェック”だけは必ずしておくべき。

8. 日本企業が実際に遭遇した“トラブル事例”から学ぶべきこと

 そのほか、同社が紹介したトラブルは、どれも他人事ではない。誰でも起こりうること。たとえば、、、

● ① NMPA申請を代理店に丸投げして進捗が一切わからなくなる

書類には企業秘密も多い。丸投げはトラブルの元。

● ② 境内責任者と関係悪化 → 輸出そのものが止まる

パッケージ変更・処方変更など、あらゆる修正に境内責任者が必要。仲が悪くなると実質“何もできない”。

● ③ 模倣品が勝手にNMPA登録されていた

最悪の場合、偽物の方が“正規品”になり、日本側がブランド名変更を余儀なくされた事例もある。

ここから得られる教訓はただ一つ。「丸腰で中国に行かないこと」知財対策は必ず同時に行うべきだ。

9. 最後に──海外展開は“準備の質”で決まる

同社のまとめは非常にシンプルだ。

  • 海外はEUルールを起点に作られている
  • 中国は独自ルールが多く複雑だが、理解すれば進められる
  • 処方は開発段階から“海外を見据えて”組むべき
  • NMPAは難しいが、不可能ではない
  • 知財対策は最初から必須

「知らなかった」では済まない世界だからこそ、丁寧な準備と正しい情報 が、何よりも力になる。

 今回の話を聞いて強く感じたのは、最初から“海外のマーケット”を前提にして設計することの重要性だ。国内のルールだけを前提に進めてしまうと、後になって海外展開でつまずき、後付けで修正しきれずに諦めてしまう──そんなケースが本当に多い。

 商品の可能性を閉じてしまうのではなく、戦略次第で、最初の一歩から海外を視野に入れて設計する。そのうえで、必要な知見を持ち、正しく準備しておくこと。それこそが、これからの時代の“海外戦略”の出発点なのだと思う

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