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中国美容博覧会が示した日本ブランドの未来──国際ビジネス連携機構が語る「0.43%の壁」と海外進出のリアル

へぇ、と思いながら話を聞いていた。中国美容博覧会――それは30年もの歴史を持ち、世界中のビューティーブランドが名を連ねる一大イベントだという。来年の開催も発表され、日本が主賓国に選ばれたそうだ。会期は2026年5月12日〜14日、場所は上海の新国際博覧センター。

 僕は普段、どうしても越境ECの文脈で“海外”を俯瞰しがちだが、今回の話は少し違う。どちらかと言えば、現地に乗り込み、そこで販売することを視野に入れながら、日本企業の裾野を広げていく――そんな取り組みに近い。

馴染みのあるキレイコムの上田さんに誘われ、「なるほど、こういう世界もあるのか」と思いながら、興味深く耳を傾けていた。

中国美容博覧会という「世界最大級の実験場」

 上田さんは、元々アーツという会社に在籍していた人物だが、2018年にキレイコムを設立し、翌2019年から中国美容博覧会の日本事務局を担っている。それ以前から博覧会とは縁が深く、コロナ禍による空白を挟みつつも、通算15回連続で日本企業の出展を支援してきた“現場の伴走者”だ。

現在は中国だけでなく、ベトナム、シンガポール、マレーシア、ドバイにも拠点を広げ、日本メーカーの海外進出を一気通貫で支える体制を整えている。そんな上田さんが「世界一大きい」と断言する中国美容博覧会は、今年5月の3日間で来場者数69万2,452名、出展企業3,200社という圧倒的な規模を誇った。

 来場者の約7割はアジア圏だが、欧米や中東のバイヤーも少なくない。30年近い歴史が生んだ信頼と実績があるからこそ、「本気のバイヤー」が毎年集まり続けるのだという。にもかかわらず、日本企業の出展数はピーク時の300社を超えられず、足踏みが続いている。

 ここに課題がある、と上田さんは指摘する。日本企業は、どうしても“腰が重い”。だからこそ、2026年の日本「主賓国」選出は、日本ブランドにとって千載一遇のチャンスになる――上田さんは、そう強調していた

日本ブランドにとっての“勝負の分かれ目”──NMPA取得

 そして、この日の集まりは、そんな中国美容博覧会への「出展者募集」という側面を持ちながらも、同時に“学びの場”としての色合いも強かった。そのセミナーの中で、何度も飛び出したキーワードがある。

 ──「NMPA」。

 中国で化粧品を販売するうえで避けて通れない、あの制度のことだ。

NMPA──中国市場の“本気度”を測られる瞬間

 上田さんは、自身が中国美容博覧会に通い続ける中で、何度も同じ光景を見てきたという。ブースにやってきた中国のバイヤーが、日本のメーカーに開口一番こう尋ねる。「この中で、NMPAを取得しているのはどれですか?」

 その問いに対して、「今は越境ECで売っていまして」「これから申請を検討していて……」と答えた瞬間、商談のトーンは一気に落ち込む。「それだとまだ時期尚早ですね」と、あっさり流されてしまうケースが本当に多いのだという。

 逆に、きちんとNMPAを取得しているブランドは、展示会後に具体的な取引や大型案件へとつながっていく。その変化を、上田さんは15回の出展支援の中で“横で見てきた”。

 NMPAは、言ってしまえば「中国で正規に化粧品を販売するための入場券」だ。もちろん、取得には時間もコストもかかる。だが、そこを避けていては、いつまでたっても本気のビジネスにはならない。上田さんが繰り返し訴えていたのは、「展示会の場で、“本気度”は一瞬で見抜かれる」という現実だった。美しいコンセプトやパッケージだけではなく、NMPAまで含めて“戦う準備”ができているかどうか。

 今回、簡単ではあるが、NMPAに関しての理解を深めるための記事も書いておいたので、参考にしてほしい。

参考記事:はじめての中国化粧品ビジネス──NMPAって何? なぜ必要? を、ゼロからやさしく解説する

そこが、中国に挑む日本ブランドの勝負の分かれ目になっている。

共同ブースがひらく第一歩──「一社では届かない」出会いをつくる

 さて、美容博覧会自体の話に戻そう。とはいえ、いきなり単独で広大なブースを構え、中国美容博覧会に挑むのはハードルが高い。

 そこでキレイコムが用意しているのが、日本企業による「共同ブース」だという。今年5月の会場では、6コマ分の大きな日本ブースに5ブランドが参加し、連日多くのバイヤーが足を止めていた。通常は3m×3mの9平米ブースが標準だが、共同ブースにすることで存在感も集客力も一気に高まる。

 この共同ブースの特徴は、単にスペースをシェアするだけでなく、施工やパンフレットの制作、ライブコマースの配信設計まで、出展に伴う面倒な準備をワンストップで引き受けてくれる。化粧品メーカーには展示会をきっかけにした問い合わせが継続的に届き、健康食品メーカーは大口の案件や中国以外の保険会社との商談につながった。メンズコスメのブランドは、展示会で100名以上のバイヤーと名刺交換を行い、日本の工場見学やライブコマースへと展開していったという。

 上田さんが重視しているのは、「まず現場に立ってみること」だ。共同ブースなら、出展手続きや施工費の負担を抑えながら、中国市場の“温度感”に触れ、具体的な反応を確かめることができる。さらに、2026年には10コマ規模、さらには40ブースまで拡大したいという構想も紹介された。

 日本ブランドのロゴが一列に並び、来場者が一目で「ジャパン・パビリオンだ」とわかるようなブースをつくる──それは単なる出展支援ではなく、日本全体のプレゼンスを高める取り組みでもある。

展示会で終わらせないための物流と伴走支援

 もうひとつ、キレイコムの強みとして語られたのが「物流とその先の伴走」である。

 上田さんは、国内外の物流を担う別会社も運営しており、中国や東南アジアに向けた出荷まで自社でハンドリングしている。だからこそ、契約が決まった後の出荷量の増加や、取引の広がりをリアルに実感できるのだという。ヘアケアメーカーでは、中国の大口案件2件に加え、他の3カ国とも取引が決まり、現在もボリュームが伸び続けている。サプリメントのメーカーでは、1カ月で約6万件の受注という実績が継続中だ。

 展示会の会期中には、ライブコマースを組み合わせたプロモーションも行う。

 これまでに15社以上の美容メーカーが、現地からのライブ配信を実施し、10万人以上が視聴した。ブースでの接点とオンラインでの露出を掛け合わせることで、現場での熱量をそのまま販売につなげていく。重要なのは、展示会を「ゴール」にしないことだと上田さんは言う。会期後に続くサンプル出荷、追加注文、別エリアとのマッチング──その一連のプロセスを、物流まで含めて支えていくからこそ、結果として数字が積み上がる。

「日本の企業には、もっと元気にチャレンジしてほしい」。

 その思いが、共同ブースという“入口”と、物流・ライブコマースを組み合わせた“出口設計”の両方になって現れている。こうして上田さんのパートは、中国という具体的な市場を舞台に、「やれば成果が出る」という手触りを持った話として締めくくられた。

「0.43%しか出ていない」日本企業の現実

 そして、この日は、その上田さんも理事を務める一般社団法人国際ビジネス連結機構の関係者の姿も見られた。トリを務めた代表理事の松浦さんは、「日本全体の話」に切り替えていった。

 最初にスクリーンに映し出された数字は「0.43%」。これは、日本の中小企業のうち、海外進出を果たしている企業の割合だという。「めちゃめちゃ少ないですよね」と苦笑しながらも、その現実の重さを噛みしめるように語る。 一方で、今の日本は世界から見れば“バーゲンセール”のような状態だ。円安が進み、ビッグマック指数では世界41位。

 1人あたりGDPもじわじわと順位を落としている。インバウンド需要は10兆円規模まで膨らんだが、GDP約600兆円のうちの10兆、20兆では、日本全体の成長を押し上げるには足りない。東京で暮らしていると、その感覚がなかなか実感を伴わないが、ドル換算で見れば、日本経済はすでに大きく目減りしている──松浦さんは、そう静かに指摘した。

 「じゃあ、本当にやばいのか」。問いかけに続く答えは、明快だった。

 「やばいです」。少子化が進み、成長率ランキングは世界最悪レベル。

 にもかかわらず、多くの企業は「いつか海外に出たい」「タイミングを見て」と言い続けるだけで、実際には動かない。やり方がわからない、腰が重い、今じゃない──そうした言い訳が積み重なった結果が「0.43%」なのだと、松浦さんは断言する。

言い訳をやめて海外に出る──成功事例が少ないからこそのチャンス

 海外に出ない理由は、決して“能力がない”からではない。むしろ、やり方を教える側に問題があるケースも多いと、松浦さんは続ける。

 展示会に出展させて終わり、立派な調査レポートを作って高額なコンサル費を取るだけで、具体的な販売や継続的な取引にはつながらない。宮崎市の担当者から聞いたという「300万円払ってレポートだけ」という嘆きは、日本各地で起きている現実だ。

 本来、海外進出のゴールは「テストマーケティングをした」という報告書ではなく、「実際に売れ続けていること」のはずだ。そのためには、一般貿易や越境EC、卸の仕組みを理解しつつも、「現地のバイヤーにどうアプローチするか」という営業目線が欠かせない。流通の仕組み、現地人材とのパートナーシップ、そしてそれらを束ねる戦略と知識──この3つが揃えば、海外展開は決して夢物語ではないと、松浦さんは言う。

 実際、彼らはライブコマースだけで4日間・5回の配信から1億1,000万円を売り上げた実績を持つ。

 台湾でのビジネスマッチングイベントでは、現地の政府系団体が費用を持ち、日本企業の講演と商談の場を用意してくれた。そこから継続的な取引やコラボレーションが生まれている。重要なのは、「いつか出たい」と言い続けるのではなく、「まず1歩を踏み出すこと」。成功事例が少ない今だからこそ、新たなロールモデルになれる余地が大きいのだ。

仲間と仕組みで世界へ──連携機構がつくる“商談のショートカット”

 では、個々の中小企業が単独で海外市場に挑むのは、現実的なのか。それで、一般社団法人国際ビジネス連携機構の存在意義を語るわけだ。

 松浦さん自身、もともとはフジテレビ系列などと一緒にメディアの新規事業開発を手がけ、収益化まで持っていくことを得意としてきた人物だが、6年半前にシンガポールへ移住し、そこから各国のネットワークを広げてきた。現在、同機構はマレーシアに支部を持ち、現地の商工会がオフィスとワーキングスペースを無償で提供してくれているという。

 台湾でもトップクラスの食品商社が支部運営に名乗りを上げ、会員企業の商談確約ツアーを共催。マレーシア最大級の流通を持つ商社の社長に、いきなり日本企業がプレゼンできる機会など、普通にビジネスをしていてはまず得られないだろう。

 さらに、インドネシア前々大統領の娘が率いるワヒド財団がアドバイザリーボードに入り、1億人のイスラム教徒に向けたハラル商品開発・販売のルートも開けつつある。ネットワークビジネス企業からは、たった3品のラインアップに新たな日本製商品を加えるための初回3,000万円の発注が入った。テレビ局との連携で、ペット関連商品の販売をニュース番組まで巻き込んで展開したこともある。

 こうした一連の取り組みの根っこにあるのは、「一社だけで戦うのは弱い。集団で行くからこそ魅力になる」という発想だ。だからこそ、現実的な会費で、ノウハウとネットワークをシェアし、会員企業を増やすことを重視している。日本側だけでなく、台湾やマレーシア側も「日本企業と付き合いたい」と強く望んでおり、その出会いの“入口”が国際ビジネス連携機構なのだ。

タイタニックから救命ボートへ──いま踏み出すかどうかが分かれ目

 セミナーの最後に、松浦さんは日本経済を「タイタニック」に例えた。少子化と成長の停滞が続く中で、このまま何もしなければ、日本丸はゆっくりと沈んでいく。

 残念ながら、「いつかまた良くなるだろう」という希望的観測に根拠はない。だが、その一方で「救命ボート」も確かに存在する、とも言う。それが、海外に踏み出しているわずか0.43%の企業たちだ。

 成功事例を探して安心したくなる気持ちは、誰しもある。

 だが、0.07%しか日本に入ってきていない海外企業でさえ、日本市場に数十億円単位の投資をして新規事業を立ち上げようとしている。海外から見れば、日本のものづくりやブランド力は、依然として非常に魅力的なのだ。ラオスの空港に掲げられた日本国旗や、「日本人です」と名乗った途端に笑顔になる現地の人々──そうしたエピソードは、数字だけでは語れない日本の“アドバンテージ”を物語っている。

 「今と同じ行動を続けていても、何も変わらない」。松浦さんは、そう言い切ったうえで、「別にうちを崇めろという話ではない。踏み台にしてくれていい」と笑った。国際ビジネス連携機構がつくろうとしているのは、海外展開の“近道”ではなく、行動するための“きっかけ”だ。ライブコマースを呼ぶのもいい、商談ツアーに挑戦するのもいい。重要なのは、聞いて終わるのではなく、何かひとつでも新しい行動を起こすこと。

 中国美容博覧会という巨大な舞台での必要性を説く、今回の話は、日本ブランドにとっての「救命ボート」を、具体的なルートとして見せてくれる時間でもあったように思う。

 勇気と覚悟を胸に、あとは、そのボートに乗るかどうかを、一社一社が決めるだけだ。

 今日はこの辺で。

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