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CEATEC 2025 取材記──AIが“人に寄り添う”時代へ

幕張メッセを歩くたびに、未来のかたちが少しずつ見えてくる。アジア最大級のIT・エレクトロニクス展示会「CEATEC(シーテック)」には、企業や官公庁、スタートアップまで、あらゆる業種が集まり、社会課題に挑むテクノロジーを披露していた。テーマは「Society 5.0」──AI、IoT、ロボットが、いかに人と共存するか。その問いに対して、各社のブースはそれぞれに“人に寄り添う技術”のかたちを見せていた。

日立──“現場を動かすAI”が描く、協働の社会

 日立は工場や建設現場におけるAI活用を提示していた。一見すると、ECや小売業とは直接関係がないように思える。だが、AIへの向き合い方を見ているうちに、むしろ僕らこそがそこから学ぶべきではないかと感じた。日立製作所が掲げていたのは「Lumada(ルマーダ)3.0」。

 その語源は「データに光を当て、価値を引き出す」である。長年、企業の現場で培ってきた知見とAIを融合させた“実践の装置”といえる。中でも注目を集めていたのが、AIエージェント「Lydee(ライディー)」だ。メタバース空間に再現された工場や建設現場で、Lydeeが点検位置を指示し、危険箇所を特定する。

 これまでAIは平面的な情報処理が中心だったが、ここでは空間を立体的に把握しながら、より高次な判断を下している。実際の現場を写真や3Dデータとして取り込み、メタバース上で作業の最適解を導くことで、作業員一人ひとりが自律的に課題を解決できるようになっている。

AIは「特化」させることで価値を最大化する

 重要なのは、このAIの構造そのものよりも、背後にある思想である。日立が長年支えてきたのは“現場の安全”であり、その知見があるからこそAIが空間を理解し、人の代替ではなく「協働する存在」へと進化している。

 これまでのAIが“平面で考える存在”だったとすれば、Lumadaは“空間で考えるAI”である。

 この発想は、実はECや小売の現場にも通じる。たとえば、実店舗では、顧客がどの棚でどの商品を手に取り、どの瞬間に購買を決断するのか──その一連の流れを立体的に捉えることができれば、販売体験は格段に変わるだろう。スタッフがどの位置でどのような接客をし、どんな言葉が購買を後押ししたのか。

 それらをデータ化して解析すれば、リアルとデジタルの境界を越えた“購買行動の可視化”が可能になる。つまり、これまで人が感覚的に積み上げてきた「接客の知恵」や「空気の読解力」までも、AIが支援できる段階に近づいているのだ。

 数字や文字の先にある「文脈」や「気配」を掴み取る──そこにこそ、AIと人が本当の意味で協働する未来がある。

【シャープ】AIは“話し相手”にもなる──ポケットサイズの友だち「ポケとも」

 シャープのブースに足を踏み入れる、ミーアキャットのような小型ロボット「ポケとも」に遭遇。ChatGPTと連携する対話型AIであり、過去の会話を記憶し、文脈を踏まえて応答するという。日立が「保守」や「安全」といった社会インフラの領域でAIを活用していたように、シャープは「暮らし」の領域でAIをどう根づかせるかを探っている。AIをどこに特化させ、どのように企業の哲学と結びつけるか──その考え方にこそ、AI時代の企業像が映し出されている。

 説明員が「この子、ちゃんと会話を覚えるんですよ」と語ると、ポケともが小さくうなずいた。

 スマートフォンアプリと連動させることで、自宅ではロボットと、外出先ではアプリを通じて会話を継続できるという。担当者が口にした「一緒に暮らすような感覚で話しかけてほしい」という言葉が印象的だった。シャープは長年、“暮らしを豊かにする”という企業理念を掲げてきた。その延長線上にAIを置くことで、生活の中に自然なかたちでテクノロジーを溶け込ませている。

 家庭内で交わされる日常の会話がデータとして蓄積され、それがユーザー体験の快適さを高める。AIはその循環を支える装置であり、単なる技術ではなく「生活に寄り添う媒介」として機能している。

 もちろん、それらの会話データはログとして残る。そのため、AIとのやり取りは次第に自然になり、より精度の高いサポートへと発展する。家電との親和性も高まり、利用者の行動を予測して動くような「気づく家電」へと進化していく可能性がある。

 無限に広がるAIの可能性を、あえて“暮らし”というテーマに絞り込む。そうすることで、シャープは自社の存在意義を再定義している。技術を拡張することよりも、生活者の心にどう寄り添うか──その問いこそが、AI活用の本質なのである。

【JTB×POCKET RD】顔はめパネルが“動く”──観光体験を変える「iM/Me」

 地方への貢献の形はさまざまである。その可能性をデジタルの力で広げようとしていたのが、JTBであった。

 同社のブースには、多くの人にとって懐かしい“顔はめパネル”がデジタル化された姿で展示されていた。アバター生成デバイス「iM/Me(アイミー)」は、まず自分の顔を撮影すると、AIが自動的に合成を行い、モニター上で自分が地域キャラクターや地元ゆかりの歴史上の人物に変身する仕組みである。

 撮影後にはQRコードが発行され、スマートフォン上で動画として閲覧できる。さらにAIが顔の向きを自動補正するため、自然な動きのまま“キャラクターとしての自分”を体験できる。ユニークなのは、AIが顔の向きを自動で補正してくれる点だ。たとえ自分が横を向いていても、当てはめるキャラクターの動きに合わせて自然に顔も横を向く。

 この仕組みは単なる観光演出にとどまらず、体験をデジタルコンテンツ化し、課金モデルとして地域経済へ還元する設計になっている。「現在は道頓堀に1台設置していますが、今後は全国展開を目指しています」と担当者は語っていた。

 観光地で思い出をつくる行為そのものが、新しい地域経済を生み出す。その構想には、観光とテクノロジーの融合による“持続可能な地方創生”という視点が見える。

【ENEOS×エニキャリ×ZMP】街に溶けるロボ──宅配ロボ「デリロ」が走る未来

最後に立ち寄ったのは、赤い小型ロボット「デリロ(DeliRo)」が動くNEDOブース。「あ、これ見たことある」と思わず足を止めると、ROBO-HIの木村寛明さんが駆け寄ってきた。

「たしかENEOSさんやエニキャリさんと実証をされていましたよね?」そう声をかけると、木村さんがうなずく。あの時は、ENEOSのガソリンスタンドをロボットの充電拠点として活用し、エニキャリの配送ネットワークに組み込むという内容だった。

 ROBO-HIはロボットを“つくる側”の立場にある。だからこそ、課題は「このロボットを社会のインフラにどう位置づけるか」だ。エニキャリの場合、もともと店と消費者をつなぐフードデリバリーの仕組みがあり、その中にデリロを組み込むことで、注文から決済、配送までを自動化した。自転車で培ってきたルートや配送ノウハウをロボに引き継がせたわけだ。

 ブースの中を静かに走るデリロの姿は、もはや未来ではなく“今”の延長線上にある。「使い方次第で、街のハブになれるんです」と担当者。ロボットが人を“置き換える”のではなく、人を“支える”存在として、新しい日常が静かに始まっているように見えた。

技術の先にある“ぬくもり”

 CEATECの会場を歩いて感じたのは、まずAIの使い道である。正直、AIはなんでもできてしまう。ただ、範囲が広すぎて実際には使いこなせないというのも実態としてある。企業が今、そこで、AIを通して立ち上がる理由は、それをある程度絞り込むことで、企業や人が使いやすくできるからだ。どこで絞り込むか。例えば、日立であれば保守。シャープであれば家庭の日常。自分たちが得意とするジャンルや、長年企業が培ってきたノウハウを生かすという文脈の中でAIを活用することで、一気にAIは身近なものとなる。

 テクノロジーの中心に、人がいる。それが、宝の持ち腐れとならないように、人間の知恵が結集して、デジタルが未来を示していることを、今年のシーテックは静かに、しかし確かに教えてくれた。

──今日はこの辺で。

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