BASEが33億円でEストアーを子会社化―EC市場の未来を切り開く新たな一歩
2024年12月26日、BASE株式会社は、EC支援事業を手がける株式会社Eストアーの株式取得(子会社化)を正式に発表しました。この発表はEC業界にとどまらず、多くの企業や事業者から注目を集めることでしょう。BASEは「誰もが簡単にネットショップを開設できる」という独自のコンセプトで急成長を遂げてきました。一方、Eストアーは長年にわたり中小企業から大手企業まで、幅広い層にECサービスを提供してきた老舗の存在です。今回のM&Aは、BASEにとって新たな成長の扉を開く戦略的な一手であり、EC市場における競争の激化に対する重要な布石となるでしょう。
本記事では、BASEとEストアーの歩みを振り返りながら、今回の子会社化がなぜ重要なのかを解説していこうと思います。さらに、取得の背景や具体的なスキーム、今後の展望についても触れ、BASEが描く未来のビジョンを紐解いていきます。
1. BASEとEストアーの歩みが交差する瞬間
BASEは2012年に創業し、EC市場に新しい風を吹き込みました。語弊を恐れずいえば、BASEは、インスタントECとも言われ、そこが画期的でした。
「BASE」は初期費用無料で簡単にネットショップが作れるサービスとして、多くの個人やスモールビジネスに利用されてきました。特に、デザインの自由度や直感的な操作性が支持され、創業からわずか数年で国内トップクラスのECプラットフォームへと成長しました。
一方、Eストアーは1999年に設立され、黎明期からEC支援事業を展開してきました。2001年には大阪証券取引所ナスダックジャパン市場(現JASDAQ)に上場し、その後も堅実な経営を続けています。Eストアーの主力サービスである「Eストアーショップサーブ」は、ネットショップの構築から決済、マーケティング支援までを一貫して提供する総合ECプラットフォームです。
中堅企業や大手企業からの信頼も厚く、BASEとは異なる市場で確固たる地位を築いてきました。
これまで異なるターゲット層を持っていたBASEとEストアーが、一つのグループとして交差すること。それは、EC市場における新たな可能性を示すことになるのでしょうか。BASEはスモールビジネスの支援に強みを持ち、Eストアーは中堅以上の企業をターゲットとする。
この二つの企業が手を取り合うことで、より幅広い市場をカバーできるようにはなりそうです。
2. 子会社化に踏み切った理由とその背景
BASEがEストアーを子会社化する決断を下した背景には、EC市場の急速な変化があります。
現在、EC市場は成長を続けているものの、個人やスモールビジネスを対象としたサービスは競争が激化し、新規参入も増えています。このような状況の中で、BASEが持続的に成長していくためには、より規模の大きな顧客層へリーチする必要がありました。
Eストアーは、長年にわたり中堅から大企業に向けてECサービスを提供し続けてきた企業です。BASEにとって、Eストアーの持つ顧客基盤や技術、そして豊富な経験は非常に魅力的な資産と言えるでしょう。
特に「Eストアーショップサーブ」は、BASEがこれまで手がけてこなかった市場への新たな入り口を提供しています。このM&Aは、BASEにとって単なる事業の拡大ではなく、サービスの多角化と顧客層の拡充という点で大きな意味を持っています。
さらに、Eストアーの非公開化により、経営資源を事業運営に集中できる点も大きなメリットです。これにより、サービスの質を向上させるための新たな投資が可能となり、BASEグループ全体としての競争力が一層高まることが期待されています。
3. M&Aのスキームと今後のスケジュール
今回のM&Aは、BASEが直接Eストアーの株式を取得するのではありません。日本成長投資アライアンス株式会社(JGIA)が設立した特別目的会社(SPC)を通じて進められます。
M&Aスキームの流れ
1.2025年3月4日~4月1日
JGIAが設立したSPC「株式会社JG27」がEストアーの株式公開買付け(TOB)を実施します。TOB価格は1株1,953円で、市場価格に対して約63%のプレミアムが付与されています。
2.TOB成立後
JG27がEストアーの株式を最大で100%取得します。
3.2025年7月中旬
BASEが33億円を支払い、JG27からEストアーの株式を取得します。
4.Eストアーの上場廃止
TOB成立後、Eストアーは東京証券取引所スタンダード市場から上場廃止となります。
なお、Eストアーの連結子会社である「WCA」および「SHIFFON」はTOB前に第三者へ譲渡されます。そのため、BASEが取得するのはEストアー本体とその子会社「株式会社アーヴァイン・システムズ」だけです。
ちなみに補足説明資料によれば「BASEがSPC(特別目的会社)からEストアーの株式を取得する際の金額が33億円」とされています 。だから、この33億円という金額は、Eストアーの発行済株式の100%を取得するためのコストであり、BASEがM&Aの資金として、手元現預金を活用して支払う金額ということになります。勝負に出ましたね、BASE。
4. BASEが見据える未来――シナジーがもたらす価値
さあ、BASEとEストアーの統合により、EC市場での新たなシナジーが生まれるでしょうか。
まず、BASEの既存プロダクトをEストアーの顧客に展開することで、収益の多角化が図れます。
例えば、「Pay ID」などのBASEの金融サービスをEストアーの加盟店に提供することで、顧客一人当たりの取引単価を向上させることが可能です。また、ECプラットフォームとしての規模が拡大することで、決済手数料や広告費のボリュームディスカウントが期待できます。これにより、運営コストの削減と利益率の向上が見込まれます。
また、その決済に紐づく形で、より多くの顧客層のデータを集める事ができれば、それはお互いにとって新たな事業価値をもたらすかも知れません。以前、Eストアーの石村社長と話した際に、これからECはよりヘッドレスになっていくといった趣旨の発言をしていたのが記憶に残っています。
多様な価値観を受け入れ、あらゆるところにECが浸透していくことが、大事。その時に、プラットフォームという枠組みは、よりボーダレスに、商品が個々の趣味嗜好や価値観と紐づくようになっていなければなりません。そうなる上で、決済を抑えるのは必須なんですよね。BASEはそこを最重要視して、その上にECを設計してきました。だからこそ、日本のしかるべき、自社ECの発展を考えれば、Eストアーにとってそれは、必要な選択だったのかもしれません。
今日はこの辺で。