バンダイナムコのIP戦略と海外展開:2025年3月期第3四半期決算から見えた成長の鍵
バンダイナムコホールディングス(以下、バンダイナムコHD)の2025年3月期第3四半期連結決算(2024年4~12月累計)は、売上高が9,556億6,300万円と前年同期比23.8%増加し、過去最高水準に達しました。営業利益も1,792億3,300万円(同129.0%増)と大幅に伸び、経常利益1,854億1,300万円(同106.9%増)、四半期純利益1,286億9,900万円(同113.1%増)と利益面でも軒並み前年を大きく上回りました。全ての事業セグメントが増収増益を達成しており、同社の幅広い事業ポートフォリオが奏功した形です。
決算概要:全セグメントで増収増益の好調な業績
セグメント別に見ると、特に「デジタル事業」と「トイホビー事業」が業績を牽引しました。
・デジタル事業
デジタル事業(ゲームコンテンツ)の売上高は3,570億2,300万円(前年同期比35.7%増)となり、セグメント利益は705億9,700万円と前年から桁違いの伸び(同4271%増)を記録しました。家庭用ゲーム分野では、世界的なヒットとなった『ELDEN RING(エルデンリング)』の大型追加コンテンツ「SHADOW OF THE ERDTREE」や、新作家庭用タイトル『ドラゴンボール Sparking! ZERO』がグローバルで好調でした。
また既存タイトルのリピート販売(再販売)も堅調で、前年は大型ヒットが一巡していた反動もあり大幅な増益となりました。ネットワークコンテンツ(モバイルゲーム)分野でも、「ドラゴンボール」や「ONE PIECE(ワンピース)」といった主力アプリゲームが国内外で安定した収益を維持し、新作スマホゲーム『学園アイドルマスター』も好調なスタートを切っています。これらの新旧タイトルのバランスがとれたラインナップ強化により、デジタル事業全体が高収益体質へと成長しました。
・トイホビー事業
トイホビー事業(玩具・ホビー)も引き続き堅調で、売上高は4,641億8,700万円(同19.0%増)、セグメント利益は976億1,800万円(同40.0%増)となりました。この事業はガンダムやドラゴンボール、ワンピースなど日本発の人気キャラクターIPの商品展開が世界的に拡大していることが追い風です。動画配信サービスの普及により海外でも日本のアニメやキャラクターへの親和性が高まっており、バンダイナムコHDは国内外で商品のカテゴリー拡大やイベント・直営店の強化、生産体制の拡充を図って需要を捉えました。
具体的には、「機動戦士ガンダム」シリーズのプラモデル(ガンプラ)や高価格帯フィギュアといった大人向けホビー商品が、充実した商品ラインナップとマーケティング戦略によって好調に推移しました。また「ワンピース」や「ドラゴンボール」のトレーディングカードゲーム、ガシャポン(カプセルトイ)、キャラクター菓子・食品なども、ターゲット層や販売地域の拡大とファンとの接点強化によって売上増に貢献しています。玩具とホビーを融合した商品展開力と強力なIP群により、トイホビー事業は安定した収益源となっています。
・IPプロデュース事業
映像・音楽等を手掛けるIPプロデュース事業も堅調で、売上高609億7,300万円(同9.7%増)、セグメント利益94億2,400万円(同38.6%増)と増収増益でした。特に劇場映画が好調で、ガンダムシリーズ最新作**『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』がガンダム映画史上最高の興行収入を記録し、また人気漫画原作のサッカーアニメ映画『ブルーロック』もヒットして業績に寄与しました。加えて、ガンダムやブルーロックをはじめ「ラブライブ!」シリーズ**、「転生したらスライムだった件」などの映像配信やグッズライセンス展開が国内外で好調に推移しています。アニメや音楽ライブの再開・活発化により、関連イベントやライブ映像ソフトの売上も伸びました。リアルイベント需要の回復を追い風に、IPプロデュース事業は自社IPの魅力を高めて多方面に展開する役割を果たしています。
・アミューズメント事業
アミューズメント事業(ゲームセンター運営や業務用機器)も回復基調です。売上高は1,047億6,400万円(同18.6%増)、セグメント利益81億4,100万円(同7.7%増)となりました。国内のゲームセンター(アミューズメント施設)は来館者が戻り、既存店売上高は前年同期比106.9%と増加しました。
バンダイナムコ独自の新業態施設も好調で、グループ横断型の直営店である「バンダイナムコ Cross Store」(複数事業の商品を扱う複合店)や大量のカプセルトイを集めた「ガシャポンのデパート」**はファンの新たな体験拠点として人気を博しています。また、業務用ゲーム機も新製品や定番機種が安定して売れており、アミューズメント事業全体の底上げに寄与しました。このセグメントでは、グループ商品のファン接点としての施設の役割を一段と強化しつつ、コスト効率の改善にも継続して取り組んでいます。
任天堂やタカラトミーとの戦略の違い
バンダイナムコHDの快進撃を語る上で、同業界の競合企業である任天堂やタカラトミーとの比較は欠かせません。各社ともエンターテインメント業界で強みを持ちますが、そのビジネスモデルと戦略には大きな違いがあります。
・任天堂との違いは・・・
まず任天堂との比較です。任天堂の2025年3月期第3四半期(2024年4~12月)の連結売上高は9,562億円と、売上規模ではバンダイナムコHDとほぼ拮抗しました(バンダイナムコHD: 9,556億円)。
しかし、その内容は対照的です。任天堂は自社開発のゲーム専用機とソフトウェア(マリオ、ゼルダ、ポケモンなどの独自IP)による垂直統合型ビジネスが特徴で、高い利益率を誇ります。実際、任天堂の同期間の営業利益は2,475億円にのぼり(バンダイナムコHDは1,792億円)、営業利益率でも25%以上と依然として高収益です。ただし今期は前年同期と比べ減収減益となりました。これは前期(2024年3月期)にNintendo Switch向けのキラータイトルが相次いだ反動や、ゲーム機「Switch」自体の販売台数が成熟期に入り伸び悩んだことが要因です。
一方のバンダイナムコHDは、家庭用ゲーム機に依存せず様々なプラットフォームでIPを展開する戦略が奏功し、前年を上回る業績拡大を実現しました。任天堂は今後、新ハード(次世代機)の投入が見込まれる移行期にありますが、自社IPの映画化(例:スーパーマリオ映画)やテーマパーク展開(ユニバーサルスタジオの「マリオ」エリア)など、ゲーム以外の領域にも積極的に進出しています。
つまり、任天堂はハードとソフトを一体化した体験価値を提供しつつ、その人気キャラクターを周辺事業にも広げる戦略です。一方のバンダイナムコHDは、最初から玩具・映像・ゲーム・音楽・施設運営まで複数の事業ドメインを持ち、一つのIPを軸に多面的な収益化(いわゆる「IP軸戦略」)を図っている点が大きな違いと言えます。例えば「機動戦士ガンダム」のようなIP一つをとっても、プラモデルやフィギュア(玩具)、アニメ・映画(映像)、ゲームソフト(デジタル)、イベントやアトラクション(アミューズメント)といった具合に、グループ内外で幅広く展開することで収益機会を最大化しています。こうした分散型のビジネスモデルは、ハード依存型の任天堂と比べ景気や製品ライフサイクルの変動リスクを抑え、安定成長に寄与している点が強みです。
・タカラトミーとの比較
次にタカラトミーとの比較です。タカラトミーは主に玩具業界で競合する存在で、バンダイナムコHDのトイホビー事業と同じ土俵に立っています。2025年3月期第3四半期のタカラトミー連結売上高は1,949億9,720万円(前年同期比21.7%増)と、こちらも2期連続で過去最高を更新する好調ぶりでした。ただし規模の面では、バンダイナムコHDのトイホビー事業売上高4,642億円の半分以下であり、グループ全体の売上となると約5分の1という差があります。
タカラトミーは玩具専業メーカーとして長年培った定番ブランドを多数抱え、近年はそれらを核にした新展開で成長を図っています。国内市場では「プラレール」(鉄道玩具)や「トミカ」(ミニカー)といったロングセラー商品に大人向け高級ライン(例:「トミカプレミアム」やリアル志向の「プラレールリアルクラス」)を投入したり、他社IPとのコラボ商品「ドリームトミカ」で話題性を高めたりすることで、子どもから“大きなお友達”まで幅広い層の需要を開拓しています。
この結果、タカラトミーの国内売上は前年同期比25%以上伸長し、特に大人のファン層(キダルト層)を取り込む戦略が奏功しています。また、ベイブレードなど自社玩具IPのアニメ化・大会イベント開催によるメディアミックス展開にも積極的で、ユーザーコミュニティを盛り上げる努力を重ねています。一方、海外展開ではタカラトミーは地域別戦略を強化しており、中国市場で「トミカ」の直営店をオープンするなど現地密着の取り組みが成果を上げています。ただ、グローバルで見るとタカラトミーは米国市場の玩具低迷の影響を受けるなど課題も抱えており、世界的なIP展開力ではバンダイナムコHDに一日の長があります。
・自前のキャラIP、玩具を起点としたコンテンツ
このように競合各社はそれぞれ強みと弱みが異なり、差別化戦略も多様です。任天堂は「自前の世界的人気キャラクターIP」と「ハード・ソフト一体のプラットフォーム」を最大の強みとし、高収益モデルを構築しています。一方、ハード依存ゆえに世代交代期の谷間では業績が踊り場になるリスクがあります。タカラトミーは「玩具」というフィジカルな商品の企画開発力や歴史あるブランド力に強みがあり、近年はデジタル技術や大人層への訴求で新風を起こしていますが、事業領域の狭さゆえにヒットコンテンツや地域景気に業績が左右されやすい側面があります。それに対しバンダイナムコHDは、「ゲーム×玩具×映像×音楽×施設運営」を統合した総合力と、多彩なIP群によるポートフォリオ経営が特徴です。この総合エンターテインメント企業としての構えが安定感と成長力の両立につながっており、競合との差別化要因となっています。
ライセンシービジネスの動向:キャラクターIP活用の収益と成功要因
IPが玩具などで派生
バンダイナムコHDの好業績を支える柱の一つに、キャラクターIP(知的財産)のライセンシービジネスがあります。同社は自社オリジナルのIPだけでなく、他社が保有する人気キャラクターのライセンスも幅広く活用し、玩具やゲーム、映像化など多岐にわたって商品展開しています。第3四半期決算でも、このライセンス関連収入の好調さが随所に表れています。
まず、自社グループで創出したIPに関しては、先述の「ガンダム」「アイドルマスター」シリーズなどが代表格です。
ガンダムはアニメーションスタジオ(サンライズ、現バンダイナムコフィルムワークス)から生まれた自社IPであり、そのプラモデル販売や映像作品、ゲーム、イベントに至るまでグループ内で一貫した展開が可能な強みを持っています。今回の決算でも劇場版『ガンダムSEED FREEDOM』が大ヒットし関連商品の売上増に繋がったほか、ガンダム関連のライセンス商品(例えば衣料品や雑貨など外部企業とのコラボ商品)の展開も国内外で活発でした。また「アイドルマスター」シリーズもゲーム発の自社IPとしてライブイベントや音楽CD、グッズ販売などに広がっており、新作スマホゲーム『学園アイドルマスター』の成功は自社IPの価値最大化戦略の好例と言えます。
他社IPのライセンス展開においても、バンダイナムコHDは業界トップクラスの実績を誇ります。
・トイホビーなどで開花
同社のトイホビー事業で扱う「ドラゴンボール」「ワンピース」「ウルトラマン」「仮面ライダー」などのキャラクター玩具やカードゲームは、原作を持つ出版社・映像会社などからライセンス供与を受けて商品化したものです。こうした他社IP商品がヒットする要因としては、コンテンツホルダーとの密接な協業と商品企画力が挙げられます。たとえば、「ドラゴンボール」「ワンピース」のスマホゲームは原作の世界観を活かしつつ、ユーザーを飽きさせない継続的なアップデート施策により高いリテンション(継続利用)を実現しています。
これらは原作者側(版権元)との緊密な連携があってこそ可能になる施策であり、ファンの嗜好に合わせた運営によってライセンス作品ながら長寿タイトルとなっています。
また、玩具においても、例えば特撮ヒーローやアニメキャラのなりきり玩具・フィギュアは、子ども向けでもコレクション性やギミックに工夫を凝らし、大人のファンにも魅力的な商品として企画されています。版権元にとってもバンダイナムコHDは信頼できるライセンシー(商品化パートナー)であり、人気IPの価値を損なわずむしろ高める形で商品展開を行う姿勢が、継続的なライセンス契約とヒット商品の創出につながっています。
・ライセンスビジネスの収益
ライセンシービジネスの収益は、版権利用料や商品ロイヤリティとして同社の各事業セグメントに表れます。第3四半期は、映像作品のヒットやアプリゲームの好調によりライセンスフィー収入が増加し、IPプロデュース事業の利益率向上にも寄与しました。
特に海外市場での日本キャラクター人気拡大は、ライセンスビジネスの追い風です。例えば**『ブルーロック』や『ラブライブ!』といった作品は、海外の配信プラットフォームでファン層を広げたことで現地企業とのグッズ提携やイベント開催など新たなビジネス機会が生まれています。バンダイナムコHDはこうしたチャンスを逃さず、「パートナー企業との共創」という方針のもとでライセンス事業を推進しています。
版権元・商品化企業それぞれの強みを持ち寄り、新たな商品の企画開発やプロモーションを協力して行うことで、単なるライセンス供与に留まらない深い協業関係を築いているのです。この共創モデルが、多くのキャラクター商品やコラボ企画を成功に導く背景にあります。
結果として、バンダイナムコHDのライセンシービジネスはIPホルダーにも収益をもたらしつつ、自社の成長エンジンにもなっています。テレビアニメ発のキャラクター玩具や、人気コミック原作のゲームなど、ライセンスを起点とした商品は引き続き堅調であり、今期の記録的な増収増益にも大きく貢献しました。
海外展開:グローバル市場での戦略と適応
バンダイナムコHDは近年、海外展開を経営の重要テーマに掲げており、第3四半期の業績からもグローバル市場での成功が読み取れます。
同社は「世界中のIPファンと繋がる」ことを目指す経営方針のもと、日本国外での売上拡大に注力していますが、特に北米とアジア(中国を含む)を重点地域と位置付けています。実際、2025年3月期の中期目標では海外売上高比率35%を掲げ、将来的には半数を海外から得ることを目標にしています。
・北米市場
北米市場との相性は非常に良好です。北米は世界最大のエンターテインメント市場であり、ビデオゲームやカードゲーム、フィギュアなどに多くのコアファンが存在します。バンダイナムコHDのデジタル事業でヒットした『ELDEN RING』はその好例で、欧米を中心に大ヒットし、世界的なゲームアワードを席巻するなど評価も売上もグローバル規模で成功しました。
またトイホビー分野でも、ドラゴンボールカードゲームやONE PIECEカードゲームは北米・欧州で販売が拡大しており、日本発カードゲームとして異例のヒットとなっています。こうした成功の背景には、現地法人やパートナー企業によるきめ細かなマーケティングとコミュニティ形成があります。バンダイナムコHDは北米子会社を通じて現地の消費者ニーズを捉え、人気IPの魅力をそのまま伝えるローカライズ戦略を推進しました。例えば、アニメ関連商品のプロモーションでは、SNSやコンベンション(アニメ・コミックの大型イベント)を活用してファンとの直接交流を図り、熱量の高い支持を獲得しています。結果として北米での売上は順調に拡大し、同社全体の成長に大きく寄与しています。
・アジア市場
アジア市場も重要な柱です。中でも中国は巨大な潜在顧客層を擁する魅力的な市場であり、日本のキャラクターIPに対する関心も高まっています。バンダイナムコHDは、中国本土での事業展開に積極的で、現地のパートナー企業と協力して市場開拓を進めています。例えば、上海には実物大ガンダム立像が設置され話題を呼び、併設の公式ショップではガンプラなど関連商品の販売が好調です。
また、玩具大手のタカラトミーが上海に「トミカ」の直営店を開設したように、バンダイナムコHDも「ガシャポンのデパート」やポップアップストアといったリアル拠点をアジア各地に展開し始めています。アニメやゲームコンテンツについては、中国や東南アジアでのオンライン配信を通じてファン層を拡大し、それに合わせてグッズ販売やイベント展開を図る戦略です。文化的な違いにも配慮しつつ、現地語対応の商品パッケージや宣伝展開を行うことで、各国のユーザーに受け入れられるよう工夫しています。その成果は数字にも表れており、アジア地域全体の売上高は堅調な伸びを示しています。
欧州やその他の地域にも目を向けると、欧州市場では日本の玩具・ホビーやゲームの固定ファンがおり、特にフランスやイタリアなどはアニメ人気が高い土壌です。バンダイナムコHDは欧州でもアニメイベントに参加したり、現地ディストリビューターとの連携でホビー商品の流通拡大に努めています。オセアニアや中南米でも、Dragon Ballや聖闘士星矢といった長年愛されているIPのグッズ需要が根強く、ニッチながら確実な売上を積み上げています。
・国ごとの特性に合わせて
このように、各国・地域ごとの市場特性に合わせた柔軟な戦略が功を奏し、バンダイナムコHDの海外売上は順調に拡大しています。海外展開の成功要因としては、単に製品を輸出するのではなく「現地のファンとの接点を作る」アプローチが挙げられます。直営店やイベントでファンが実際に体験できる場を提供したり、SNSを通じてグローバルなファンコミュニティを育成したりすることで、IPへの愛着とブランドロイヤリティを醸成しています。また、現地パートナー企業との協業によって市場ニーズに即した商品展開ができている点も重要です。バンダイナムコHDにとって、海外市場は今後さらに伸びしろの大きい成長ドライバーであり、地域ごとに磨かれた戦略で世界中のファンを獲得し続けています。
今後の展望:中期計画と成長戦略
2025年3月期第3四半期までで、バンダイナムコHDは通期業績予想に対して売上高で約78%、営業利益・経常利益で約99%、純利益では100%を超える進捗となりました。これを受けて、同社は通期業績見通しを売上高1兆2,300億円(前期比+17.1%)、営業利益1,800億円(同+98.5%)へと上方修正しています。今期はこのままいけば年間業績でも過去最高を更新する公算が大きく、第4四半期の動向にも期待が集まります。
・三カ年計画
こうした短期的な好調さだけでなく、バンダイナムコHDは持続的成長に向けた中期計画(3カ年計画)もしっかりと推進しています。
現行の中期計画(2022年4月~2025年3月)では、「IP軸戦略の進化」を掲げ、世界中のファンやパートナーと深く広く繋がることをテーマとしてきました。具体的な目標には、前述の海外売上高比率の向上(最終年度で35%)や、新規IP創出への投資強化、DX(デジタル・トランスフォーメーション)によるファンとのエンゲージメント強化などが含まれています。第3四半期までの成果を見ると、主要IPのグローバル展開拡大やデジタル事業の収益改善など、計画は順調に進んでいると言えます。
2025年4月からは新たな中期計画がスタート予定です。バンダイナムコHDは次期中期計画に向け、組織体制の強化や事業ユニット再編も進めています。例えば、デジタル事業とトイホビー事業のさらなる連携を図るため、ユニット間の垣根を低くし、市場やIPごとに機動的にプロジェクトを組成できる体制づくりを検討しています。
また、IPプロデュースユニット(映像・音楽事業)の役割を拡充し、グループ横断でIP創発から育成、収益化まで統括する「IPプロデュースセンター」のような機能強化も視野に入れているようです。アミューズメント事業に関しても、企画開発子会社「バンダイナムコエクスペリエンス」を新設し、従来の施設運営会社と統合することで、リアルとデジタルを融合した新しいエンターテインメント体験を創出する計画が発表されています。
これは、ゲームセンター事業を単なる遊び場提供から進化させ、イベント・eスポーツ・メタバース連携など次世代の遊びを取り込んでいく戦略といえます。
・成長戦略
ー主力IPと新規IP両軸で攻める
成長戦略の面では、バンダイナムコHDは引き続き主力IPへの集中投資と新規IPの育成を両軸で進めていく見込みです。既存の強力なIP、例えばガンダム、ドラゴンボール、アイドルマスター、テイルズ、PAC-MANといったタイトルには、ゲーム新作や映像化、グッズ展開など継続的な投資を行いブランド価値を高めます。一方で、将来の柱となるオリジナルIPの創出にも積極的です。
近年では『ブルーロック』のような人気漫画のアニメ化プロジェクトに参画**したり、自社ゲーム開発スタジオで完全新作IPに挑戦したりと、コンテンツパイプラインの拡充を図っています。特にゲーム分野では世界市場を視野に入れた大型プロジェクト(高品質な家庭用ゲームやグローバル同時展開のスマホゲーム)に力を入れる方針で、第3四半期の決算説明でも「ファンの期待に応えるクオリティ重視のタイトル開発」を今後も追求するとしています。
さらに、ファンとの繋がり方を進化させる取り組みも注目されています。
ーファンプラットフォーム構想
バンダイナムコHDはメタバースやオンラインコミュニティを活用した次世代ファンプラットフォームの構想を打ち出しており、その第一弾として「ガンダムメタバースプロジェクト」を進行中です。これはガンダムの世界観を軸に、ファン同士や企業とファンが仮想空間で交流・創作できる場を提供する試みで、完成すればデジタル上での新たな収益モデルともなり得ます。
また、eスポーツ大会の開催やVTuberを起用したプロモーションなど、時代に合わせたファンアプローチにも柔軟に挑戦しています。こうしたイノベーティブな戦略は、単に売上を伸ばすだけでなくファンエクスペリエンスの向上を通じてIPの長寿命化・コミュニティ強化につながり、ひいては事業全体の底上げになると期待されます。
総じて、2025年3月期第3四半期の好調な決算は、バンダイナムコHDが培ってきたIP活用戦略と事業ポートフォリオ経営の強さを証明するものでした。同社は競合他社と比べてもユニークなビジネスモデルを確立しており、それが現在の成長を牽引しています。
今後も中期計画に沿ってグローバル展開とIP創出を加速させ、エンターテインメント企業として新たな価値を提供し続けるでしょう。ビジネス環境が変化する中でも、ファンとパートナー企業を巻き込んだ共創と、培ったノウハウによる柔軟な戦略実行によって、バンダイナムコHDは持続的な成長軌道を歩むことが期待されています。