B2B顧客離れの背景――アスクルが挑む課題と未来 2025年5月期第2四半期決算
アスクル株式会社が発表した2025年5月期第2四半期決算は、売上高が過去最高を更新する一方、利益面では課題を抱える内容となりました。特に、B2B事業における一部需要の減少が浮き彫りになる一方で、B2C事業は順調に成長を続けています。この背景には何があるのか。本記事では、アスクルの業績全体を整理しながら、B2BとB2Cのセグメントごとの特徴を紐解き、同社が未来に向けてどのような布石を打っているのかを探ります。
1. 全体業績の俯瞰――売上高過去最高も利益率は低下
アスクルの2025年5月期第2四半期決算によると、連結売上高は2,379億円と前年同期比2.9%増を記録しました。この数字は、同社の歴史において過去最高水準です。しかし、営業利益は60億円で前年同期比16.8%減少しました。
要因の内訳
•売上総利益率が前年同期比0.9ポイント低下(24.4%)。
•為替変動による輸入コスト増加が影響。
•「ASKUL関東DC」稼働準備に伴う固定費増加(7.1億円)。
一方で、販管費比率が21.8%と前年同期比で0.3ポイント改善しており、効率化の努力も見られます。これらの結果から、売上増加による利益の押し上げが固定費増加や為替の影響に吸収される形となり、利益率が低下したと言えます。
2. B2B事業――停滞する需要、その背景にある「顧客の動き」
B2B事業(ASKUL事業)は、アスクルの基幹事業であり、企業向けにオフィス用品や生活用品、医療用品を提供しています。しかし、2025年5月期第2四半期においては、売上高が前年同期比2.3%増の1,782億円と堅調ながらも、顧客数の減少が大きな課題となっています。
(1)商品値上げと価格競争力の低下
原材料や物流コストの高騰を受け、アスクルは商品の価格を段階的に引き上げています。これにより顧客単価は上昇しましたが、特に中小企業や個人事業主など価格に敏感な顧客が他社サービスに流れる結果となっています。具体的には以下の状況が挙げられます。
•顧客単価の増加:値上げの影響で1件あたりの売上が増加。
•顧客数の減少:価格に対する敏感な顧客層が離脱。
(2)配送条件の改定が生んだ「不便さ」
2023年11月に実施された送料無料条件(配送バー)の改定も、中小顧客の購買行動に影響を与えました。1回の注文金額が2,000円未満では送料がかかるようになったことで、小口注文を行う顧客が離脱した可能性が高いです。
(3)中小企業需要の停滞
中小企業の需要が伸び悩んでいる点も課題の一つです。コロナ禍以降、経済回復が緩やかであることや、事業縮小に伴う支出抑制が背景にあります。特にオフィス用品の需要は、リモートワークの普及によって減少傾向が続いています。
(4)競争環境の激化
B2B市場では、競合他社が積極的に価格キャンペーンを展開しています。これにより、特に中小顧客層でのシェア争いが激化している状況です。
3. B2C事業――LOHACOの成長理由
一方、B2C事業である「LOHACO事業」は、売上高181億円(前年同期比3.6%増)と順調に成長しています。この背景には、以下のような取り組みが挙げられます。
(1)LINEヤフーとの連携による集客強化
LOHACOは、LINEヤフーとの連携を強化し、効果的なプロモーションを実施しています。特にLINE広告を活用したターゲティング施策により、消費者の購買意欲を高めることに成功しています。
(2)オリジナル商品の拡充
LOHACOでは、オリジナル商品を積極的に投入しており、その数は2025年5月期第2四半期時点で18,046アイテムと、前年同期比で2,485アイテム増加しています。このような差別化戦略により、顧客単価とリピート率の向上が実現されています。
(3)配送サービスの柔軟性
B2Cでは配送条件がB2Bよりも柔軟であり、個人消費者のニーズに応えやすい点が好調の要因です。送料無料条件も緩やかで、利便性が高いことが消費者から支持されています。
(4)エンゲージメントの強化
LOHACOでは、リコメンドエンジンやUI/UXの改善を進め、顧客体験の向上に努めています。この結果、購入時の満足度が高まり、リピーターの獲得につながっています。
4. 全体業績を支える「物流改革」と未来への布石
アスクルは、全体の業績を底上げするために「ASKUL関東DC(ディストリビューションセンター)」の稼働準備を進めています。この新拠点は、物流効率を飛躍的に向上させることを目的としており、次世代の成長を支える重要な役割を果たす見込みです。
主な特徴
•GTP(Goods To Person)ロボットの導入
作業効率を向上させ、物流コスト削減に貢献。
•基幹システムの刷新
データドリブンな物流オペレーションを実現。
また、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みも並行して進めており、環境省の脱炭素化モデル事業に参加するなど、持続可能な社会への貢献も強化されています。
5. B2BとB2Cの融合――未来を見据えた成長戦略
アスクルは、B2BとB2Cの強みを融合させた成長戦略を模索しています。
•オリジナル商品開発:B2Cでの成功をB2B事業にも応用。
•物流基盤の共通化:効率化により、両セグメントの収益力を向上。
また、B2Cで培ったマーケティング手法をB2B事業にも展開することで、顧客満足度の向上を図る計画です。
まとめ
アスクルは、B2B事業における顧客離れという課題に直面する一方で、B2C事業での成長が全体業績を支えています。両セグメントの特性を生かしつつ、新たな物流インフラとESG経営を軸に成長を目指す姿勢が、同社の未来を切り開くカギとなるでしょう。次の決算では、これらの施策がどのように成果を上げるのか注目が集まります。
今日はこの辺で。