減益の裏に見える成長の芽──イオンとセブン&アイ、“構造改革”の現在地を読む
2025年2月期決算は、小売大手2社にとって象徴的な年となった。イオンは営業収益10兆円を突破する一方で、純利益が35%超の減少。セブン&アイも同様に、営業収益は堅調ながら純利益は2割以上減となった。だが注目すべきは、いずれも“減益”が“失敗”を意味しないという点だ。両社が掲げるのは、「中長期の成長へ向けた体質転換」。今期はその布石となる1年だった。2社の決算を比較しながら、その本質に迫る。
第1章:売上成長と利益減少、その“真意”は?
-
イオン:収益過去最高も利益減、構造転換の痛み
→ 営業収益は10兆1,348億円(+6.1%)と好調ながら、当期純利益は35.6%減。構造改革に伴う特別損失が影響。
-
セブン&アイ:増収減益も、意図的な改革期
→ 連結営業収益は11兆9,727億円(+4.4%)ながら、営業利益・純利益ともに2割超減。米国事業の再編コストや店舗閉鎖による減損が主因。
-
共通点:痛みを伴う成長戦略
→ いずれも“あえて減益を選ぶ”戦略を採用。未来を見据えた基盤整備期としての位置づけが明確。
第2章:事業ポートフォリオで見る攻守の違い
-
イオン:GMS苦戦、金融と不動産で下支え
→ GMSは減益、SMはPB戦略で下期回復。注目はイオンフィナンシャルやディベロッパー事業が好調を維持している点。
-
セブン&アイ:国内CVSに陰り、SIPで再構築
→ コンビニは減収減益。ただしSIPストアというハイブリッド業態への挑戦が始まっている。米国CVS事業も縮小し再編中。
-
比較ポイント:多角化と集中化
→ イオンは“多角化”で全体のバランスを保つ。一方、セブンは“選択と集中”で中核事業に資源を注ぐ構え。
第3章:投資の質が未来を決める
-
イオン:DX・人時生産性・PB強化
→ 店舗改装やデジタルバンクなど、リアルとデジタルの融合に積極投資。
-
セブン:SIP・7NOW・テック小売へ進化
→ SIPストアの拡大、高付加価値商品、デリバリー強化。2030年までを見据えた次世代型CVS構想。
-
キーワードは“リアルの再定義”
→ どちらも「店舗とは何か?」の問いに向き合い始めている。小売=場所の提供ではなく、価値接点の創出へ。
第4章:KPIに映る“痛み”と“準備”
-
イオン:減益も収益性は段階的に回復見通し
→ 来期予想で営業利益+13.6%、純利益+39%増。PB戦略と構造改革の成果が試される1年に。
-
セブン:EPS・ROEは低下、でもFCFは増加
→ 一時的に数値は悪化したが、キャッシュ創出力は維持。非中核事業売却により筋肉質な体制へ。
-
今後の焦点:改革が“果実”に変わる瞬間を見逃すな
→ 財務KPIは、“今は我慢”の時期であることを示している。2026年以降の反転に注目。
第5章:2030年ビジョンと企業の“意思”
-
イオン:アジア戦略と生活密着型グループへ
→ ヘルスケアと地域密着を軸に、東南アジアでのモール・金融連携を拡大。
-
セブン&アイ:食と情報のプラットフォーマーへ
→ 7NOW・デリバリー・リテールメディアへ進出。食を軸にテクノロジー活用を深め、店舗の“情報流通基地化”を図る。
-
未来への布石はすでに始まっている
→ 両社とも“モノを売る企業”から“ライフスタイルを設計する企業”へと進化しようとしている。
減益は終わりじゃない、始まりだ
2025年の両社の決算は、単なる業績比較では語れない。むしろ、減益の中にこそ未来への意思が宿る。来期は、その芽がどこまで芽吹くかが試される1年となるだろう。