アダストリア、未来の小売へ新たな一歩:「株式会社アンドエスティ」設立
急速に変化する小売業界の中で、デジタルとリアルの境界を曖昧にし、顧客との新たなつながりを創出することが求められています。アダストリアは、EC事業「and ST」を進化させ、新たに「株式会社アンドエスティ」を設立しました。この一手は、単なるファッション販売から脱却し、顧客や企業、地域を巻き込んだ「ファッショントータルプラットフォーム」への変革を意味しています。OMO(Online Merges with Offline)を核とした取り組みを通じ、アダストリアが目指す未来の小売像とはどのようなものなのでしょうか。
ファッションの枠を超えたプラットフォームの進化
株式会社アダストリアは、2024年12月1日付で自社EC事業「and ST(アンドエスティ)」を新会社として分離、完全子会社「株式会社アンドエスティ」を設立しました。
この新会社設立の背景には、同社が目指す「ファッショントータルプラットフォーム」の進化があります。
アダストリアはこれまで、カジュアルファッションを中心にグローバルワークやローリーズファームといった複数のブランドを展開し、多くの顧客に支持されてきました。しかし、消費者のライフスタイルがモノ消費からコト消費、そしてトキ消費へと進化する中で、アダストリアはファッションに留まらず、より広範な価値を提供するために新たなステップを踏み出しました。
「and ST」から「and ST」へ:さらなる可能性を秘めたプラットフォーム
and STは、2024年でサービス開始10周年を迎え、流通総額約360億円、会員数約1,800万人という規模まで成長しました。
新会社設立の目的は、この成長を基盤に外部企業の参画を促進し、さらなる拡大を図ることです。2022年よりand STはオープンプラットフォームとして他社の参入を受け入れ、2024年時点で17社22ブランドが参加しています。
新会社では、こうした外部企業との連携を強化し、and STを物販にとどまらない「ファッショントータルプラットフォーム」として進化させていきます。
新たなプラットフォームの特徴は、ファッションだけでなく、生活全般にわたるカテゴリー拡大です。
and STはすでにコスメや下着を始めとする新しいパートナー企業の参入を促進しており、今後も新規カテゴリーの拡充を目指します。また、リアルとデジタルを融合させたOMO型店舗「and STストア」の出店を拡大し、2025年には旗艦店のオープンを予定しています。
デジタルとリアルの融合:OMOの真価
OMO(Online Merges with Offline)の取り組みは、今後の小売業界における重要な戦略の一つです。
and STストアは、全国に22店舗を展開し、実店舗とECを融合させた新たなショッピング体験を提供しています。
OMO型店舗では、オンラインでの購入やポイント利用だけでなく、リアルな店舗での体験を充実させることで、顧客とのつながりを強化します。さらに、業界初の「and STポイント」「dポイント」「楽天ポイント」のトリプルポイント付与を2025年に開始予定で、これにより顧客のロイヤルティを高めることが期待されています。
小売の未来を見据えた新たな戦略
アダストリアが目指すのは、単なるファッション販売の枠を超えたコミュニティ型ビジネスモデルです。and STは、スタッフボードや商品レビューなど、消費者が自ら参加できるエンターテイメントコミュニティとしても進化を続けており、これによりECの枠を超えた新たな価値を提供しています。
例えば、アパレル以外にも生活雑貨や食品など、幅広いカテゴリーに拡大することで、日常生活に密着した「コト消費」「トキ消費」のニーズに応えることができるようになります。
また、and STの会員サービスも進化しており、ID連携を通じたポイント利用の拡大や、個々の顧客に対してパーソナライズされた体験を提供する。また、これにおいては、楽天ポイントとも連携を果たすことで、より高度な顧客体験を創出しています。さらに、「みんなの銀行」との協力により、利便性とお得感を兼ね備えた新たな経済圏の構築を目指しています。
小売の未来へ:データとテクノロジーの活用
新たな展望として、データとテクノロジーの活用が重要な役割を果たしています。
アダストリアは、1,500以上の店舗と30以上のマルチブランドを支えるテクノロジーを活用し、参画企業に対してデータ連携や物流倉庫連携などのマーケットプレイス機能を提供します。
これにより、企業間のシナジーを創出し、効率的かつ柔軟な事業運営が可能となります。また、パーソナライズされた顧客体験の提供を通じて、顧客一人ひとりに合った商品やサービスを提供することで、消費者とのつながりを強化しています。
アダストリアが目指すのは、単なるファッション販売企業ではなく、顧客や企業、地域をつなぐ「グッドコミュニティ共創カンパニー」です。新たなプラットフォームを通じて、ファッションの枠を超えた価値創造を実現し、小売業界の未来を切り開いていく姿勢が、今回の新会社設立に込められています。