物流と流通が交わる地点で、何が起きようとしているのか── ヤマト×国分の提携を、現場の言葉から読み解く
さきほどまで、ヤマトホールディングスと国分グループのパートナーシップ協定の記者会見にうかがった。言葉を選ばず言えば、派手な発表ではない。新しいサービス名が前面に出るわけでもなく、テクノロジーの話が語られるわけでもない。けれど、記者会見を丁寧に追っていくと、そこにあったのは「理想論」ではなく、「このままでは続かない」という現場感覚だった。物流と流通。どちらも社会を下支えするインフラでありながら、普段はほとんど意識されることがない存在だ。その二社が、なぜ今、手を組むのか。この連携は、インフラ企業が自らの役割を問い直し始めた瞬間だと、僕は受け取っている。
この記者会見で、何が語られたのか──「協定締結」の中身を整理しておく
今回の記者会見は、「ヤマトと国分が提携した」という事実以上に、その中身をどう説明するかに多くの時間が割かれていた。発表されたのは、単一の新規事業ではない。むしろ、両社がこれからどの領域で、どのように関わっていくのか、その全体像を示す場だったと言える。
軸に置かれていたのは、「持続可能な地域社会の創造」という共通目標だ。
そのために、両社は五つの共創領域を掲げた。買い物困難地域への対応、生産地と消費地をつなぐ新しい物流の形、航空便や宅急便ネットワークを活用した遠隔地流通、都市部での流通加工拠点の構築、そして生産者と消費者を直接つなぐダイレクトマーケットの創出。
ただし、これらは個別の施策説明というよりも、「点ではなく線で考えてほしい」というメッセージに近い。地域で生まれたものが、どう加工され、どう運ばれ、どう届くのか。その一連の流れ全体を、物流と流通が一体となって支え直そうとしている、という構図だ。
会見では何度も、「一社だけでは解決できない」という言葉が出てきた。人口減少、高齢化、担い手不足、物流2024年問題。こうした課題は、部分最適ではもう立ち行かない。だからこそ、国分の商流とヤマトの物流を重ねることで、サプライチェーン全体を見直そうとしている。
この前提を押さえたうえで見ると、質疑応答で交わされたやりとりは、単なる補足説明ではなく、この連携が「理想論ではなく現実対応である」ことを示す場だったことが分かってくる。
「運ぶだけでは成り立たない」と語った、ヤマトの現在地
こうした全体像を踏まえたうえで、質疑応答に入ると、会見の空気が少し変わる。理念や構想の話から、より現実的で切実な言葉が出てくるからだ。
その中でも、最も率直だったのが、「宅急便だけで地域経済は成り立つのか」という問いに対するヤマト側の回答だった。
「当然ながら、厳しい地域もあります。」
全国ネットワークを誇る企業が、こう言い切る。その事実自体が、いまの物流の置かれた状況を物語っている。営業所は年々減り、これからも減っていく。その一方で、ヤマトは車を走らせ続けている。人が暮らしている以上、物流は止められないからだ。
だからこそヤマトは、配送という行為に、別の役割を重ね始めている。移動販売や住民の移動支援といった取り組みは、善意ではなく、インフラを維持するための現実的な選択だ。今回の国分との連携も、その延長線上にある。「運ぶだけ」では、もう社会を支えきれない。その地点に、ヤマトは立っている。
卸という立場が抱えてきた、国分の見えない壁
一方で、国分グループの発言からも、同じ温度感が伝わってくる。国分は1712年創業、日本の食流通を長年支えてきた卸の代表的存在だ。ただし卸であるがゆえに、消費者との距離は構造的に遠い。
国分自身が語っているように、彼らは「運ぶこと」を生業にしてきたわけではない。
商品が完成した後、その流通を担ってきた。しかし生産者の多くは、その手前の工程で苦しんでいる。加工ができない、物流が組めない、あるいは翌日届くかどうかで価格が大きく変わる。会見で語られた牡蠣の例は、その象徴だ。
問題は商品の質ではない。流通に至るまでの“前工程”だ。国分はそのことを理解していながら、卸という立場上、踏み込みきれなかった。だからこそ、ヤマトが「生産されてから出来上がるまでのプロセスに関われないか」と語った言葉は、国分にとっても、待っていた問いだったのだと思う。
物流と流通は、本来ひとつの流れだった
今回の会見を通して、両社が繰り返し口にしていたのは、物流と商流は切り離せないという認識だ。けれど日本社会では、この二つは長らく分断されてきた。物流はコスト、流通は効率。それぞれを最適化すればいい、という発想だ。
その結果、地域の中で誰も全体を見ていない状態が生まれている。
今回示された五つの共創領域は、すべてこの分断を埋め直す試みだと感じる。
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買い物困難地域における移動販売・定置販売拠点の構築
高齢化や人口減少で店が成り立たなくなった地域に対し、ヤマトの配送網と国分の商流を使って、食品や生活必需品を届け続ける仕組み。 -
地域営業拠点・施設を活用した生産地型集約拠点の構築
ヤマトの営業所などを活用し、生産地での集荷・加工・出荷を効率化。生産者の負担を減らし、安定した流通につなげる取り組み。 -
航空機・宅急便ネットワークを活用した遠隔地間での食品流通の拡大
航空便と宅急便を組み合わせ、鮮度が価値を左右する食品を、国内外の遠隔地へスピーディーに流通させる構想。 -
都市部におけるプロセスセンターや在庫型センターなどの消費地型拠点の構築
都市部に流通加工拠点を設け、青果などをより良い状態で消費者に届けるための中間機能を強化。 -
生産者と小売・外食・消費者をつなぐダイレクトマーケットの創出
ヤマトの宅急便ネットワークと国分の商流を活かし、生産者と消費者を直接つなぐ新しい市場づくり。
ヤマトの営業所を生産地の集約拠点として活用すること、都市部にプロセスセンターを構えること、航空便と宅急便を組み合わせて遠隔地流通を成立させること。どれも新規事業というより、既にあるインフラを、別の文脈でつなぎ直す話だ。
派手さはない。だが、だからこそ現実的で、時間をかけて効いてくる。
買い物困難地域は「福祉」ではなく、構造の問題
買い物困難地域の話は、どうしても福祉の文脈で語られがちだ。
しかし今回の会見では、そこに明確な事業視点があった。2010年から続くヤマトと国分の移動販売の取り組みは、善意だけでは続かない。安定した仕入れがあり、物流が破綻せず、小売が成立するボリュームがあって、初めて地域の店は続いていく。
ヤマトの車は、すでに毎日走っている。そこに国分の商品が乗る。人の動線に商流を合わせるという発想は、地方再生というより、インフラの再編集だと感じる。
まだ形になっていないからこそ、ECは重要になる
この連携の中で、ECはまだ明確な形を持っていない。だが、それは弱点ではなく余白だと思う。
ヤマトにはクロネコメンバーズという巨大な顧客接点がある。それにもかかわらず、その接点は配送通知以上の価値を持てていない。理由は単純で、ヤマト自身が商品を持っていないからだ。
一方、国分には商品がある。全国の産地とつながっている。だが消費者との直接接点がない。この二つが重なるとき、ECは単なる通販ではなくなる。産地直送が特別な体験ではなくなり、BtoBtoCの流れが自然に成立する。地域の商品が、地域に閉じなくなる。その可能性は、まだ十分に掘られていない。
結びにかえて
僕は、この連携を持ち上げるつもりはない。お世辞を言う気もない。ただ、今回の記者会見には、現場の言葉があり、現実を直視した判断があった。
運ぶだけでは成り立たない。卸すだけでは届かない。地域は放っておけば消えていく。その事実を、両社がそれぞれの立場で語っていた。だからこそ、この連携は絵に描いた餅で終わらない可能性がある。
物流と流通。どちらも派手ではないが、社会が続く限り、必ず必要な存在だ。その二つが、自らの役割を問い直し、重なろうとしている。僕はその行く末を、期待をもって、静かに見ていきたいと思っている。
今日はこの辺で。