“営業で鍛えた心で、やっと“自分”を描けるようになった──SAKURA CREATOR’S MARKET XG
不思議とこういう時代だからか、不安を乗り越え、向き合うクリエイターの姿が印象的だった。渋谷サクラステージで開催された「SAKURA CREATOR’S MARKET XG」。404 Not Found、TSUTAYA BOOKSTORE、re-search が共同でつくる、“クリエイターの現在地” が凝縮されたようなイベントだ。アナログもデジタルも、イラストも立体作品も、ジャンルの垣根を軽々と越えたクリエイターたちが集まり、作品だけでなく「生き方」「物語」「価値観」が、会場の空気ごと立ち上がっていた。
あまり時間のない中で、その会場で、空気の柔らかさと芯の強さを同時にまとったひとりのイラストレーターと出会った。みいこさん だ。最初はふんわりした絵柄に惹かれた。しかし話を聞くうちに、それが単なる“かわいい絵”ではなく、人生そのものを通してようやく辿り着いた表現だとわかっていく。
■ 営業で、自分の殻を壊した人
彼女は最初から絵で生きていた人ではない。むしろ、自分に自信がなく、人見知りで、ネガティブな性格だったという。ただ、根は真面目なのだろう。親から“資格を取っておきなさい”と言われて…最初こそ、歯科衛生士(国家資格)をやっていた。その後、なんと畑違いの営業をやり始めて、自分を変えていく。
え?営業?思わずそう問いかけた。
はい。基本は、電話営業。それで、人と話す。想像するに案外ハードな現場だったのではないか。逃げようと思えばいくらでも逃げられる状況で、自分の弱さを一つずつ越えていった。泥臭い日々の積み重ねが、いつの間にか彼女の芯をつくった。
この時期があったからこそ、後に“絵で生きる”という選択ができるようになる。
■ ストレス発散として描いた絵が、心を支えるものになった
ただ、もとは絵を描きたかった。高校受験の時、勉強が嫌で仕方なかった頃、彼女はストレス発散として絵を描いていた。描いているときだけは心が軽くなる。
絵を描くことが彼女自身を救っていたのだ。だからこそ、ちゃんと彼女なりに、周りの助言も尊重しながら、それを踏まえて、今の着地を得た。でも、思うに、最初、描くことは、いつだって彼女にとって“避難場所”だったかもしれないが、経験を通して、表に出すための絵へと進化したのではないか。
つまり、心を守るための絵が後になって、誰かを救う絵へと変わっていく。
■ “好きなことでご飯を食べられる今が、一番幸せ”
営業で自分を鍛え直したあと、彼女はイベント出展を重ねていく。絵を描くことを隠す必要も、ためらう必要もなくなった。ようやく、好きなことに全てを向けられるようになった。
そしていま、彼女は言い切る。
好きなことで生活できている今が、一番幸せだ。
簡単に言える言葉ではない。努力の時間も、迷った夜も、全部を経て届いた実感なのだと思う。そして、過去を踏まえてやっているからこそ、今の言葉に重みがある。
■ テーマは“心の平和”。絵が、誰かの気持ちを軽くする
そして、みいこさんの作品には、一貫した流れがある。それは“心の平和”だ。
描いた絵を見た人たちから「癒された」「救われた」「元気をもらった」
そんな声が届くようになり、そこに自分の役割があると気づいたのだろう。最初こそ、無表情のイラストだったが、笑顔の絵を描くと、反応はとても良かった。それが嬉しくて、笑顔のシリーズが増えていった。
ようやく自分の立ち位置を手にしたのである。無理に作った笑顔ではなく、余白を残しつつ、じんわり心に染みてくるような表情。
人を癒そうと気負って描いているわけではない。ただ、彼女自身が必要としてきた“心の軽さ”を、かつての自分のような誰かにそっと渡すように、絵が自然にそうなっていっただけだ。
■ 「自分を変えたかった人」が、「人を癒す人」になっていた
自分を変えたくて飛び込んだ営業の世界。そこでもがきながら得た強さが、後に絵を描く時の“芯”になった。ストレス発散として描いていた絵が、いまは誰かの心を温める絵になっている。
気づけば、みいこさんは
「描ける人」ではなく「描くことで誰かを幸せにできる人」
になっていた。
この流れそのものが、すでに一つの物語だ。
■ 最後に──このイベントが生んだ“必然の出会い”
元々は、主催者側から誘われた集まりだった。ただ、今回の出会いが生まれたのは、「SAKURA CREATOR’S MARKET XG」という場が、ただの展示会ではなく“人の物語が可視化される空間”だったからかもしれない。
作品だけでなく、その奥にある生き方や痛みや再生まで、正面から受け止められる場所。そして同じ会場で出会った chikame さん の記事も公開しているけど、不思議と人生を踏まえたイラストの姿勢は、みいこさんとも重なる。
👉 chikame さんの記事:
https://145magazine.jp/character-market/2025/11/sakura-creators-market-xg-talented-artist-story/
こうした出会いの連続が、創作の現場を豊かにしていく。僕にとっても、忘れられない一日になった。
今日はこの辺で。