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生活者発想で変わる広告とCRM──サントリー×LINEヤフーが語る統合プランニングとAI活用の最前線

 サントリーはこれまで、“生活者”という言葉に独自の重みを乗せてきた。それは「消費者でも、ユーザーでもない。24時間365日を生きる“人”として向き合う」という哲学だ。LINEヤフー Biz conferenceでの今回のトークセッションには、宣伝領域を率いる野口さんと、CRMを担当する宮元さんの二人が登壇した。広告とCRM──一般的には別部門であり、扱うデータも目的も異なる。しかしサントリーの場合、この二つは一本の線で結ばれている。

 理由はただひとつ。「生活者の心を動かす」という共通のゴールを見据えているからだ。

 本稿は、両者の対話を通じて見えてきた“広告の現在地”と“CRMの進化”、そしてAI時代における新しいコミュニケーションのかたちを整理した。

テレビファーストから“生活者ファースト”へ──サントリーが語る統合プランニングの本質

・統合プランニング

 ここでトークセッションでのキーワードがあり、それが「統合プランニング」という言葉。広告の世界で何度となく語られてきたもの。要するに、異なるメディア・チャネル(テレビ、OOH、デジタル、SNS、LINEなど)や広告手法を、個別最適ではなく、生活者との出会い方を意図的に設計したうえで統合的に組み立てることだ。

 特に、サントリーの取り組みの特徴は、“生活者とは誰か”という前提から話が始まる。大事なのはその言い方。野口さんは「我々は“ユーザー”ではなく“生活者”と呼ぶ」と強調する。

 “ユーザー”と呼んでしまえば、商品やサービスを利用している瞬間にフォーカスが当たる。“消費者”と呼べば、消費行動の局所だけを切り取ることになる。しかし、人はもっと複雑で、もっと豊かだ。職場で、家で、街で、SNSで──24時間365日、態度や気分が揺れ動く存在である。その全体を見なければ、心を動かすコミュニケーションは生まれない。

 その意味で言えば、かつてサントリーは広告戦略の起点をテレビに置いていた。圧倒的な到達率、影響力、クリエイティブの自由度。テレビは“中心”だった。その後にデジタル広告、OOH、新聞や雑誌が続く、多階層のプランニング構造である。

・生活者のメディア接触

 しかしいま、生活者のメディア接触は驚くほど多様化している。「テレビをまったく見ない生活者」もいれば、「YouTubeだけを見る人」、「SNSとOOHが主な情報源」という層もいる。つまり、一括りにはできない。

 そこでサントリーは思考を転換する。テレビファーストから“メディアフラット”へ─。まずテレビを置かない。まずメディアを序列化しない。まず“生活者の出会い方”から逆算する。この考えを検証するため、サントリーは実証実験に踏み出した。

 配信比率を変えたエリアA(従来型)とエリアB(デジタル比率+10%)を比較した結果、リーチは約13%増加し、広告認知も改善した。複数のブランドで同様の結果が出たことで、「生活者起点でメディア選択を最適化する」という統合プランニングの方向性は確信へと変わっている。

 つまり、統合プランニングとは“媒体を揃える技術”ではなく、“生活者との出会い方を設計する思想”である。

OOH・LINE・動画・静止画──媒体ごとの強みを掛け合わせる「出会いのデザイン」

メディアがフラットになる?

 メディアがフラットになるということは、どれか一つが突出するのではない。要するに、それぞれのメディアの“得意分野”を理解して組み合わせる必要があるということ。

 その中で、デジタル広告の価値については「爆発的に広がるターゲティングの力」と語る。例えば、年代・興味関心・行動履歴で細かくターゲティングできるからだ。

 一方、OOHは、駅構内のデジタルサイネージなど、家以外で接触する全ての広告を指す。ここには“偶然の出会い”という強みがあると話す。「ターゲット以外にも届く」「大型面によるインパクトが生まれる」。

 特につくり手としては、OOHでしか成立しないクリエイティブを模索することが、ブランドに新しい表情を与える。

 例えば、新宿・品川駅に展開した伊右衛門の巨大OOH。ただ商品を見せるのではなく、“お茶の気配を街に溶け込ませる”ようなアプローチは、テレビでもバナー広告でも実現できない。OOHという媒体である必然がそこにある。

LINEヤフーの広告投下

 LINEヤフーの広告に投下する理由も同様だ。

 大手メディアの比較データを見ると、「LINEしか使わない」という層が一定数存在する。広く届けたいサントリーにとって、この“LINEだけの生活者”は非常に貴重であり、ブランド接点の空白地帯を埋める重要なメディアになっている。

 さらに、動画と静止画の役割分担も進化している。動画は“伝えたい世界観を深く届ける手段”。静止画は、“離脱前の数秒に必要な情報を確実に届ける手段”。

 優劣ではなく補完関係であり、生活者の態度変容のどの瞬間に触れてもらうかで役割が異なる。野口さんが述べた本質はシンプルだ。

 媒体は選ぶものではなく、“生活者との出会い方”を増やすための武器である。

 メディア統合とは、ただ組み合わせることではない。それぞれの“武器”を最大限に生かしながら、生活者の心が揺れるタイミングを広げる設計のことである。

メーカーにとってのCRMはどこから始まるのか──サントリー流CRMが辿り着いた“共感”の指標

メーカーにおけるCRMの考え方

 一般的なCRMは、購買データを起点とする。どれを買ったか、いつ買ったか、どれくらいの頻度で買ったか──。これらをもとにアプリでクーポンを出し、1to1のアプローチを行う。

 しかし、メーカーには決定的な制約がある。自社の購買データを持たない。では、サントリーはどうしたか。宮元さんがたどり着いた答えは、“生活者の意識データ・行動データ”を軸にしたCRMだった。

 具体的には、LINE内での行動データ、アンケート経由で取得した意識データ、外部データを掛け合わせながら、生活者をグループ単位で捉える。メーカーというビジネスモデルの制約を理解したうえで、最も現実的かつ効果的な方法がこれだった。

 サントリーがKPIとして重視しているのは、売上の前にある“共感指標”。つまり、「サントリーを好きだと思ってもらえるか」「ブランドに好意を持つか」「世界観を共有できるか」。その積み重ねがファン化に繋がり、結果として売上にも跳ね返る。

接触銘柄数?

 象徴的なのが“接触銘柄数”という独自指標だ。ある生活者がサントリーの何種類の商品に触れているか──。これを分析すると、接触銘柄数が多い生活者ほど“ファン”であることが明確にわかった。

 ここから逆算し、「楽しみながら接触銘柄数を増やす」キャンペーン設計へとつながっていく。過去の購買履歴をもとに生成される“自分専用のビンゴカード”。

 「あなたなら次はこれを飲んでみませんか?」という自然な提案。ゲーム性も加え、楽しみながら商品理解が進む仕掛けにした。応募数は過去比で倍以上。

 生活者からは「普段買わない商品を試すきっかけになった」「この商品もサントリーだったんだ」といった声が寄せられた。

 つまりサントリー流CRMは、購買データがないという制約から始まったが、“楽しさと共感”を入り口に、ブランド理解を深める独自モデルへ進化した。

オフライン × LINEで生まれる「三位一体のファン化設計」──イベント・告知・継続接点の循環

 サントリーにとって、オフラインイベントは非常に重要な接点である。青空の下で飲む一杯、音楽とともに楽しむひととき──体験がブランドの記憶となり、その後の購買行動にも影響する。しかし宮元さんは、そこで終わらせない。イベントは“点”であり、CRMは“線”である。この点と線をどう結ぶかで、ファン化の深度が変わる。

 そこでサントリーは「三位一体のファン化促進モデル」を構築した。

① イベント前──LINEでの告知

開催エリアの生活者へ。「この街でイベントがありますよ」と事前配信し、参加のモチベーションを醸成する。

② イベント当日──1杯無料と引き換えのLINE登録

 これが秀逸だった。“無料だから登録する”ではなく、“今日の楽しい体験をきっかけにしよう”というポジティブな導線をつくった。

③ イベント後──継続アプローチで体験を購買へ接続

 イベント後すぐに、LINE上でサンプリングキャンペーンや関連商品の案内を配信。「楽しかった体験」が生活者の中に残っているタイミングで、次の購買に繋げていく。

 結果としてイベント参加者の方が購買傾向が強いというデータも裏付けとなり、サントリーは“体験 → デジタル接点 → 継続利用”の循環を確立した。

 また、白州でのスタンプラリーでは、LINE Beaconを活用し、広大な敷地を歩きながらブランド世界観に没入してもらう体験設計を行った。QRコードではなくBeaconを採用した理由は、生活者の動きと体験の流れをより自然に接続するためだ。

 つまり、オフラインの熱量をデジタルにつなぎ、デジタルを通じて再び体験へ導く。この往復運動こそがサントリー流CRMの真骨頂であり、“生活者との関係が続く仕組み”を立体的に設計している。

AI時代、広告とCRMはどう進化するのか──メディアプランニングAIと「忘年会幹事AI」が拓く未来

広告における未来

 サントリーの二人が語った未来のキーワードは、共通して“AIをどう使うか”だった。野口さんは、広告領域で直面する課題を明確に語る。昨今、メディアは増え、広告メニューは複雑化し、部門異動によって経験値のばらつきが発生する。つまり、“広告をどう出すか”の難易度は年々上がっているのである。だから、人力でやるのはかなり至難の業。

 そこでサントリーは、「メディアプランニングAI」を開発している。ここには、過去の出稿・ターゲティング・クリエイティブ・効果測定の膨大なデータを学習させているのである。

 ただ、これはプランナーを置き換えるものではない。逆に、経験の浅いメンバーでも“良質な原案”を短時間で作れるようにする仕組みだ。人間のやるべきことに、打ち込めるように、過去蓄積したものはAIが請け負うのである。

 ゆえに、人がコアを握り、AIが枝葉を広げる。広告部門は、いま大きな武器を手にし始めている。

CRMにおける未来

 一方CRM領域では、「LINE公式アカウントのAI化」が進む。当初は自由会話型AIを想定していたが、商品情報の誤回答リスクが高すぎて断念。“メーカーとして絶対に間違えられない情報”があるからこその判断だ。

 そこから方向転換し、サントリー特有の強みを生かしたAIへと進化した。

たとえば、それは「忘年会幹事お助けAI(アンクルトリスAI)」である。

・飲食店提案

・乾杯挨拶の自動生成

・会話を通じたプランニング補助

 単なるチャットボットではなく、サントリーが長年蓄積してきた“飲みの文化”と親和性が高い体験をAI化した点がポイントだ。AIを導入するだけでは、差別化にはならない。

“企業固有の価値をどうAIに宿すか”。そこにこそブランド戦略の本質がある。

 最後に宮元さんはこう語った。「メーカーとしてのBtoBtoCモデルは変わらない。だが広告規制など環境変化を踏まえると、これまでの延長では成長できない。宣伝とCRMの連携をさらに強め、共通の生活者を軸にしたコミュニケーションを進化させたい」。

 広告とCRM。

 それぞれ違う領域のように見えて、共通点はただ一つ。“生活者の心に寄り添う”という哲学だ。

 そしてその哲学が、AI時代にどう拡張されていくのか──。サントリーの挑戦は、2025年の広告とCRMの未来を鮮やかに描き始めている。

 

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