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音楽を「遊び」として再発見する──DigiWave Pop Up 2025が示す、デジタルと感性の新しい関係

東京・渋谷のShibuya Sakura Stageで(10/4〜10/16)開催されている「DigiWave Pop Up 2025」に足を運んだ。台湾・高雄からやってきたこのフェスティバルは、センソリーテクノロジーとアートを掛け合わせ、五感を使って“遊び”を再発見させてくれる空間だった。

 入口を抜けると、まず静けさに包まれる。白を基調にした展示空間の中に、音が点在しているような不思議な空気。耳を澄ませると、遠くで誰かが奏でた音がゆっくり混ざり合いながら漂っている。

音が「貯まっていく」体験

 この展示で特に印象的だったのは、音楽を「集める」体験だ。会場のいたるところに、五線譜のようなアイコンが隠されていて、そこに書かれた“音の記号”をスマートフォンの彼らの独自アプリに入力すると、音楽が少しずつ自分の中に“貯まっていく”。

音を探す。

手がかりを見つける。

 そして、音が反応して広がる瞬間の喜び。しかも、それは音のアレンジの変遷にも気づかせてくれる旅でもある。途中に置かれた機材を前に。ヘッドホンをつけて、元の音楽をアレンジするたびに、新しい価値が生まれる。

 その積み重ねが、音の自由さと多様性を教えてくれる。それは単に音楽を聴くのでも、演奏するのでもない。自分の行動と感覚が呼応して、音が立ち上がるような感覚。

 それで。気づけば、僕のスマートフォンの中には、小さな音の断片がいくつも積み重なっていた。「音楽を聴く」のではなく、「音楽を自分の手で構築する」。

 そんな感覚に包まれたのである。

ゲームと音楽──異なる長さの“遊び”

 会場を後にする頃、Eel Game Studioの末浪勝己さんに出会った。自らゲームクリエイターである彼は、ゲームを引き合いに音楽について興味深いことを語ってくれた。

 「ゲームは長い時間をかけて物語を積み上げていく。音楽は5分で心を動かす。でも、どちらも“遊び”なんですよ」

 なるほど、と思った。

 ゲームも音楽も、本質的には人が世界を操作し、感情を揺さぶる装置だ。時間の長さや表現の形式は違っても、“遊び”という同じ根っこを持っている。

 DigiWaveの会場は、まさにその交差点なのかもしれない。音楽をゲームのように集めて、音を自分の動作で操る。けれど同時に、それはとても短く、感覚的で、瞬間的でもある。

 長い物語を積み上げるゲームの考え方は、5分で感情を動かす音楽と、上記の通り、この空間の中でひとつに融合していた。

音楽と日常が溶け合うまでの物語

 こうした体験が成り立つのは、音楽がデバイスとともに変化し続けてきたからだ。思えば、入口にはこんな展示があった。

 ウォークマンからiPod、そしてAirPodsへと至る「音楽を持ち歩く進化」を描いた展示であり、そこには宇多田ヒカル『First Love』の紹介文も添えられていた。そこには“音楽が完全にデジタル化された時代の象徴”とあった。

 確かに、『First Love』は録音からマスタリングまでデジタルで行われたDDD作品であり、音楽が“デジタルで作られ、デジタルで流通し、デジタルで聴かれる”時代の幕開けだった。

 一方でデバイスもまた、1979年にウォークマンが登場し、音楽は外へ出た。2001年、iPodで数千曲をポケットに入れられるようになり、やがてAirPodsが音楽を日常の延長に溶かし込んでいった。

 音楽はどんどん“身近”になった。DigiWaveの展示が面白いのは、まさにその流れをもう一度分解して見せてくれるところだ。音楽は聴くだけのものじゃない。

 触れて、探して、組み合わせて、遊ぶ。そこに“音楽の本質”がある。

音楽を聴く時代から、音楽と遊ぶ時代へ

 音楽は、もっと小さな単位で、楽しめる“遊び道具”へと進化している。DigiWave Pop Up 2025は、その変化を、まるでゲームのように体験させてくれた。

そしてそこにあったのは、最新技術よりもずっと人間的な、“音と共に生きる喜び”だった。

今日はこの辺で。

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