楽天グループ 2025年第2四半期決算──全セグメント増収とAI新時代への布石
楽天グループは2025年第2四半期、すべての事業セグメントで増収を達成し、黒字化を進める力強い決算を発表しました。楽天モバイルは契約数900万回線を突破、楽天市場やトラベル、フィンテック事業も順調に成長。さらに7月30日にはAIプラットフォーム「楽天AI」を正式ローンチし、秋には楽天市場への導入も予定。決算からは、楽天が通信・EC・金融・AIを一体化させた“エコシステム戦略”を加速させている姿が浮かび上がります。
1. 楽天モバイル、黒字化への確かな前進
まず、最初に代表取締役社長兼会長の三木谷浩史さんは、楽天モバイルに関しての説明から始めました。2025年第2四半期の楽天モバイル単体EBITDAは前年同期比191億円改善し56億円の黒字。初めての四半期黒字です。また、通期で、楽天モバイル単体EBITDAの黒字化を目指して、順調に推移しています。
ちなみに、契約数は7月31日時点で908万回線に達し、下半期には1000万回線突破を目指します。解約率も1.4%と低下傾向で、顧客定着が進行中。ARPU(1回線あたりの月間売上)も2,861円に上昇し、データ利用量の増加が収益ドライバーとなっています。通信品質改善と基地局増設も順調に進み、サービスの安定性は他社に迫る水準に到達しました。
ここでの安心材料をまず触れた後で、全体感を示します。
2. グループ連結業績、全セグメントで増収
連結売上収益は前年同期比11.0%増の5,964億円。連結Non-GAAP(会計ルールに基づかず、会社の特性をわかりやすく示す)営業利益は、20.1億円(前年は▲11.8億円)。これは、2019年度以来、初の第2四半期の黒字化達成を意味します。
彼らは大きく、三つのセグメントを示しており、そのインターネットサービス、フィンテック、モバイルの全てで成長を実現したと胸を張ります。要するに、、、
インターネットサービス:+6.8%(前年同期比)
→ 国内ECや旅行事業の伸長、物流事業の損失縮小などが寄与
フィンテック:+14.8%
→ 楽天カード取扱高増、銀行の運用収益増、証券・保険・ペイメントの各事業も増収
モバイル:+18.1%
→ 契約回線数増加・ARPU上昇・楽天シンフォニーの寄与で売上拡大
この3セグメント合計で、四半期売上収益は前年同期比+11.0%となり、マーケット・旅行・カード・銀行・モバイル等、幅広い事業の好調が反映されています。
また、EBITDA(税引前利益に支払利息、減価償却費を加えて算出される利益)も過去最高の1,032億円に到達。利益を創出する力が伸びていること示します。
つまり、売り上げが伸びるだけではなく、効率化が測られているわけです。その背景には、AIやデータ活用による業務効率化と、規律ある事業運営があります。これらは単なるコスト削減ではなく、全社的な利益体質の強化につながっています。
3. 国内EC事業、モバイル連携で成長加速へ
さて気になる、国内EC流通総額。前年同期比4.7%増の1.5兆円だといいます。
楽天市場や楽天トラベルのコア事業が牽引し、物流事業の料金改定も増益に寄与。特に楽天モバイル契約者の購買額は非契約者より約48%高く、モバイルとECの連携強化が今後の成長の鍵です。
経済圏を回遊するほど、EC流通総額が拡大し、それはモバイルを軸としたロイヤルカスタマーが醸成されるほど、安定するといいます。それは、後述する通り、AIによる力が発揮されやすいから。
また、一方で、物理的なサービス品質の向上も図り、最強翌日配送サービスの拡充を行いました。また、商品の幅も広がり、海外関連店舗1,000店突破など、顧客接点の拡大も着実に進んでいます。
4. トラベル事業、インバウンド需要が追い風
国内市場が全体的に減少傾向にある中、楽天トラベルは横ばい成長を維持。
特に訪日インバウンド需要が大きく伸び、グローバル関連取扱高は市場を上回る成長率を記録。UI/UX改善やBtoB事業拡大に注力し、グローバルOTA(オンライン旅行代理店)としての地位確立を目指しています。
5. フィンテック事業、顧客基盤と取扱高が堅調に拡大
フィンテック部門は売上14.8%増の2,327億円、営業利益12.2%増の434億円と好調。
楽天カードの取扱高は6.5兆円に達し、楽天銀行口座数は1,700万口座を突破。楽天証券もNISA口座が653万口座に増加し、預かり資産は40兆円目前です。各事業の顧客基盤拡大と効率的な運営が収益成長を後押ししています。
6. AI新時代へ──「Rakuten AI」正式ローンチ
また、当メディアでも記載したが、7月30日に正式ローンチされた「Rakuten AI」。
純粋に、対話だけでなくリサーチからアクションまで可能なコンシェルジュ機能を備えたAIエージェントです。
秋には楽天市場に導入され、ユーザーごとの購買履歴や嗜好データを活用したパーソナライズ提案が可能に。これにより、単なるECの利便性向上だけでなく、楽天エコシステム全体の接点拡大が期待されます。
それが快適さを向上し、ロイヤルカスタマーの醸成を強化するわけです。
つまり、楽天市場であれ、楽天トラベルであれ、それ以外のサービスを含めたAIエージェントとして、秘書のように機能する。それゆえ、ここが経済圏としての差別化になるというわけです。
これは、記者からの質問の際にもあがっていましたが、三木谷さん自身は、今以上のモバイルでの価格競争に関心を示していませんでした。それは、いずれ、モバイルを起点として利用する人が、モバイルの通話品質に限らないところで、付加価値を感じるからと考えているからでしょう。モバイルを含めた経済圏活用の快適さにより、結果、モバイルを使い続けるだろうという自信の表れなのです。
7. モバイルとエコシステムの融合が次の成長ステージ
だから、楽天モバイル契約者の増加は、楽天市場など他事業の利用促進にも直結します。
データが蓄積され、そのデータにより、より個人が特定されます。それもAIは縦割りではなく、グループのサービスを横断して、AIとしての人格を備えます。それは、あらゆる場面で、提案の精度を高めます。セマンティック検索で、例えば同じカバンでも、人によって異なる表示がなされます。経済圏というまとまったデータが揃うクローズな場所だからこそ、AIとしての真価を発揮します。
この入り口として、新たに、Rakuten LINKを使えば、対話形式で、ショッピングの幅を広げるわけです。例えば、母の日に何がいいだろうという答えに対して、旅行を案内したり、花束を案内したりと、あらゆる品揃えとグループのリソースを活かした、より好みの精度の高い選択肢が用意できるわけです。
8.AIはコアであるECの中でこそ発揮されやすい
一番、お金のやり取りが生まれやすい「楽天市場」や「楽天トラベル」でこそ、その精度の高さが売上に直結しやすい。それゆえ、自らにとってAIが付加価値であり、自前でRakuten AIを備える価値になっています。自前で持つことで、楽天の中の仕組みやルールに順応しやすくなるからです。
また、特典強化やパッケージサービス(例:楽天最強UNEXTパック)を通じてロイヤルユーザー化を進めます。なぜなら、それがARPPを上げるだけでなく、データを蓄積させて、グループ横断の収益力を高めるからです。モバイル通信・EC・金融・コンテンツを束ねた“楽天経済圏”の深化こそが、今後の成長の原動力となります。
今回の決算は、既存事業の順調さをアピールしつつ、未来に向けてロイヤルカスタマーの情勢が見込める。その視点が見られており、以前にもまして、落ち着いています。それに加えて、AIが出てきたことで、それを軸に、新しい経済圏のあり方を示す決算内容となり、その展望が、幾分わかりやすくなった気がしています。
今日はこの辺で。