楽天が提訴──ふるさと納税ポイント禁止は「違法」か? 総務省告示を巡る訴訟と制度の本質
2025年7月10日、楽天グループが東京地方裁判所に行政訴訟を提起しました。対象は、総務省による「ふるさと納税にポイント付与を禁ずる」という告示(令和6年告示第203号)。楽天側はこれを「違法であり、無効だ」と主張しています。
この訴訟は、単なる企業利益の話ではなく、「民間と自治体の連携によって地域活性化をどう実現するか」、また「税制度に求められる純度とは何か」といった本質的なテーマを含んでいます。
楽天が行ってきた“地方支援”の仕組みとは?
楽天は2015年から「楽天ふるさと納税」を開始し、全国の自治体が自社プラットフォーム「楽天市場」の仕組みを通じて寄附募集できる環境を整備してきました。寄附の受付、決済、問合せ対応、さらにはデータ活用やDX支援まで行っており、自治体との連携による地域振興を後押ししてきたと言えます。
中でも特徴的なのが、寄附者への楽天ポイント付与。これは楽天独自の経済圏を活用し、他のふるさと納税サイトとの差別化を図るもので、しかもそのポイント原資は自治体負担ではなく、楽天の持ち出しによるものでした。
「寄附のきっかけを増やし、結果的に地域の税収や産業に貢献する」
──それが楽天の主張であり、実際、寄附額も年々増加。ふるさと納税は、多くの地域にとって貴重な財源となってきたのです。
総務省の告示がもたらしたもの──なぜ訴訟に発展したのか
しかし、2024年6月28日、総務省は突如として以下のような告示改正を行いました。
「ポイント付与を行うポータルサイトを通じたふるさと納税の寄附募集は禁止する」
これは楽天のような事業者にとっては、10年以上続けてきた運営モデルの根幹に影響するものといえるでしょう。
楽天はこれを受け、「地方税法が定める委任の範囲を超えたもので、事業者の営業の自由を不当に制限する違法な行政行為だ」として、無効確認訴訟に踏み切りました。
この一連の動きは、「税制度の健全性を守るべき」という行政の立場と、「地域を支える仕組みの多様性を維持すべき」という民間の視点が、ぶつかり合っているとも言えるでしょう。
双方の主張に耳を傾けるべき理由
総務省側の立場としては、ポイント競争の過熱が制度本来の趣旨を歪めるという懸念があるようです。確かに、「寄附」という言葉には本来、見返りや誘因のない“純粋性”が期待される側面があります。
一方で、楽天のような民間企業は、寄附の行動を後押しする創意工夫としてポイント付与を活用し、それを通じて地方の産品や生産者を知ってもらう「出会いの機会」を増やしてきました。
実際、楽天が2024年から開始した反対署名活動には約295万件もの署名が集まり、国民の一定の支持を得ていることも事実です。
問われているのは「どちらが正しいか」ではない
この議論で重要なのは、「ポイント付与の是非」に白黒をつけることではないと、僕は思います。
そもそも税金には「公平性」と「納得感」が求められる一方で、ふるさと納税制度には「地域への貢献」「地産地消」「地域経済の循環」といった、もう一つの軸がある。
その間に立つ仕組みとして、民間事業者がどこまでの自由を持ち、行政がどこまでの制限をかけられるのか──。本来、制度設計として議論すべきテーマが、今回の訴訟によってあらためて浮かび上がったと感じます。
「寄附行為」の線引きを、社会全体で丁寧に見直すとき
ふるさと納税における寄附とは、「納税者の意志をもって選ばれる税の使い道」であり、もはや単なる税制上の枠を超えた「地域とのつながり」でもあります。
だからこそ、
- ✔ ポイント付与が本当に制度を歪めているのか
- ✔ それとも、新しい価値を生み出しているのか
- ✔ その両方を見つめながら、線引きを社会全体で見直す時期なのではないでしょうか。
今回の訴訟が、単なる対立ではなく、「制度の純度」と「地域への本当の貢献」を再考する契機になることを、願ってやみません。
今日はこの辺で。
- (参考リンク)
- ・総務省告示(令和6年告示第203号)
- https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01zeimu04_02000126.html
- ・署名活動ページ(楽天ふるさと納税)
- https://event.rakuten.co.jp/furusato/announce/signature/