アリババ、AIを追い風に利益回復──2025年3月期決算で見えた“選択と集中”の行方
2025年5月15日、アリババグループが2025年3月期の通期および第4四半期決算を発表した。クラウドとAIを軸とした再成長の兆しが見える一方、物流や国際事業には課題も残る。今回はこの決算を通じて、アリババがどのように事業を見直し、再び「収益体質」へと転換しているのかを読み解く。
第1章:全体収益は微増、利益は大幅増──“選択と集中”が功を奏す
・第4四半期(2025年1〜3月):売上7%増、営業利益は93%増
2025年3月期第4四半期の売上は前年比7%増の2,364億人民元(約325.8億ドル)に達し、営業利益は前年の147.6億元から284.6億元(約39.2億ドル)へと93%も増加。特に調整後EBITAは前年同期比36%増と、収益力の回復が鮮明になった 。
・通期では6%の売上成長、営業利益は24%増
通年では売上が前年比6%増の9,963億元(約1,373億ドル)、営業利益も24%増の1,409億元(約194.2億ドル)。非GAAPベースの調整後EBITAは5%増の1,730億元と堅調だった 。
・ネット利益は前年比77%増、配当も大幅増額へ
通年の最終利益は前年比77%増の1,259億元(約173.6億ドル)。株主への還元姿勢も強化され、年間と特別配当を合わせた総額は46億ドルに達する見込み 。
第2章:クラウドとAIが牽引──“Lingma”や“Qwen3”が火をつけた成長
・クラウド部門は第4四半期に18%増、AI関連は7四半期連続で3桁成長
「Cloud Intelligence Group」は、パブリッククラウドの伸長とAI関連需要の高まりにより18%増収(301億元)を記録 。生成AI関連プロダクト売上は前年同期比で7四半期連続の3桁成長。AIコードアシスタント「Lingma」や自社大規模モデル「Qwen3」シリーズが牽引役となった。
・通期でも11%成長、利益率も大幅改善
通期の売上は前年比11%増の1,180億元。調整後EBITAは72%増の105.6億元となり、利益体質への転換が進んだ。AI技術の業界導入とクラウド基盤の整備が、収益性の回復を支えている。
・生成AIの全モデルをオープンソース化
Qwen3シリーズはすでにHugging FaceやModelScopeで全モデルをオープンソース化。業界横断的なエコシステム形成に向けた布石といえる。
第3章:国内ECは堅調、“88VIP”などロイヤル層の拡大が奏功
・タオバオ&Tモール事業は9%増収、収益構造も健全に
「Taobao and Tmall Group」の第4四半期売上は前年比9%増の1,013億元。特に顧客管理収益は12%増で、取扱手数料(テイクレート)の上昇が寄与した 。
・88VIP会員は5,000万人突破、ロイヤルカスタマー化に注力
高額消費者層「88VIP」は前年比で2桁成長し、5000万人を突破。会員制度強化、価格競争力、AI接客といった体験設計の投資が奏功している。
・通期では構造改革の影響もあり3%増にとどまる
一方で、通期ベースのグループ売上は前年比3%増。Tmall直販事業の縮小が全体成長を抑制する一因に。
第4章:国際事業と物流に課題──成長と収益化の“ねじれ”
・国際事業は通期29%増だが赤字拡大
「Alibaba International Digital Commerce Group」は通期で29%増と高成長を維持したが、EBITAは前年比で倍近く赤字拡大(88%悪化) 。AliExpressやTrendyolの海外成長戦略にコストがかさんでいる。
・物流部門Cainiaoは赤字縮小も売上減少
「Cainiao」は第4四半期で売上12%減。自社EC事業との統合が進む一方で、収益源の構造転換が進行中。IPO中止の影響もあり、調整後EBITAの赤字は改善されたが、成長性には陰りも。
・通期でも物流部門は2%増収にとどまる
越境フルフィルメントの好調が支えたが、国内物流の収益減が成長を相殺。調整後EBITAは78%減と、通期でも収益構造の弱さが露呈している。
第5章:徹底したコスト管理と株主還元の強化へ
・フリーキャッシュフローは76%減、インフラ投資が影響
第4四半期のフリーキャッシュフローは前年比76%減(37.4億元→3.7億元)。クラウド基盤強化のための設備投資が影響したが、営業キャッシュフローは18%増と収益力は健在。
・1年間で1,197百万株を自社株買い、5.1%の希薄化防止を実現
通期で119.7億ドル相当の自社株買いを実施し、発行済株式数は5.1%減少。キャッシュの株主還元への活用は、資本効率改善に繋がる。
・従業員数は大幅減、選択と集中が進行
通期末時点の従業員数は124,320人と、1年間で約8万人減少。Sun Artの売却や事業再編を通じて、スリム化と俊敏性を意識した構造改革が表れている。
まとめ:
AIとクラウドの伸長に支えられたアリババの復調は確かに見える。ただし、国際戦略や物流事業では収益とのバランスに課題も残る。今後の決算で、その“選択と集中”が成果として表れるかが試されるだろう。