楽天市場はどこへ向かう? 2025年Q1決算で見えたEC成長の実態と生成AIの可能性
楽天グループが発表した2025年1~3月期(第1四半期)の決算を見て、率直に思ったことがある。「ついに数字が追いついてきた部分もある。一方で、課題もまだ多いな」と。特にこれまで重荷だったモバイル事業が、ようやく黒字に転じたこと。これは確かに評価すべきことだと思う。だが一方で、グループ全体の利益構造はまだ万全とは言えず、それがダメとは言わない。「これからが本当の勝負だ」とも感じた次第である。
そしてEC、つまり楽天市場を中心としたインターネットサービス部門は、表面的な成長率では見えにくいが、着実に地盤を固めている印象も受けた。数字をもとに冷静に答えてみたい。
モバイル黒字化でようやく“足かせ”が取れた?
まずはグループ全体の主要数字を見ておきたい。
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売上収益:5,627億円(前年比+9.6%)
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EBITDA:799億円(+51.4%)
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営業利益(Non-GAAP):−305億円(前年比251億円の改善)
このうち注目すべきは、楽天モバイル単体のEBITDA(固定資産税除く)が1億円の黒字になったこと。ここまで莫大な先行投資を重ねてきた部門が、ようやく収穫フェーズに入りつつあるということだ。
ただし、これで万事OKというわけではない。営業利益ベースではまだ赤字が続いているし、全体としての財務の健全性を語るには、もう一段深掘りが必要だと思う。
楽天市場の成長は“着実”ではあるが、爆発力は感じにくい
では、EC部門はどうか。インターネットサービス部門の成績は以下の通り。
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流通総額:1.4兆円(前年比+3.0%)
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売上収益:2,367億円(+6.2%)
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営業利益:243億円(+10.0%)
前年比で見れば、たしかに成長はしている。しかも、悪天候や祝日周りの影響を除けば+4.4%の実質成長という見方もある。ただ、それでも今の市場全体の成長スピードを考えると、もう一声欲しいと思ってしまうのが正直なところだ。
モバイルユーザーが“売上の質”を高めているという構造
とはいえ、ポジティブな変化もある。楽天市場で特に伸びを見せているのが、楽天モバイル契約者による購入だ。
なんと、契約者の流通額は非契約者に比べて47.5%も高いというデータが出ている。
これはつまり、モバイルという“入口”から楽天経済圏に入ったユーザーが、楽天市場や楽天カードなどの他サービスにスムーズに接続され、そこで継続利用されているということ。一人ひとりの顧客単価を底上げする仕組みが、うまく機能し始めているとも言える。
つまり、今まで単体で楽天のサービスを使っていた人より、モバイルの分だけ、支払う額が増えている。それに加えて、その付加価値により今までにも増して、楽天のサービスを使うようになっているということ。
さらに言えば、モバイル契約者の新規流入が、そのまま楽天市場の新規顧客として転換されている可能性も高い。これが実現できているのは、楽天がIDベースでサービスを“つなげて”いるからに他ならない。
配送体験の刷新──「翌日届く」ことが意味を持ち始めた
もうひとつ彼らが強調したのは、「楽天最強翌日配送」の浸透だ。Amazonが圧倒的な配送スピードを武器にする中で、楽天も地道に物流網の再構築を進めてきた。「成果が数字として現れ始めている」。そう彼らは説明している。
地方のエンパワーメントでありつつ、日常遣いでの利用が増えて、配送での利便性の高さが差別化要因となる。だから、その品質を店舗と一体で図っていくことが、そもそもの土台を作るようになっている。
ここには、単に配送が早くなるだけではなく、ユーザーが再び買いたくなる“信頼の接点”を作るという意味がある。
生成AIが「見つけてもらえる未来」をつくるか?
そして、今回の決算で個人的に最も興味深かったのが生成AIの進化と、その実装レベルだ。楽天市場では、すでに「セマンティック検索」というAI技術が導入されている。
これは、キーワードだけでなく「ユーザーの意図」を理解し、検索結果に反映するというもの。実際、楽天はこのAI検索の導入以降、明確に検索経由の売上が伸びているという。
つまり、アナログ的なインフラは上記の通り整えつつ、デジタル面での機会損失を無くしていく。検索結果、ゼロでないことが購入機会を作り、上記のインフラの価値の実感へとつながるわけだ。
今後は、人気度・購買傾向・文脈まで考慮したパーソナライズ型検索を強化していくというから、ここにはまだ大きな伸び代がある。そう説明するわけである。
楽天が持つ“武器”は、IDベースのデータ統合にあり
思うに、なんと言っても、その要となるのは、楽天ID。そこを軸にサービス全体がつながっていて、購買履歴、閲覧履歴、決済情報、旅行の予約情報、さらには通信データまで──これらがすべて、楽天IDを通じて統合的に管理されている。
だから、楽天モバイルを起点に流入し、楽天市場でものを買い、楽天トラベルで旅行をして、楽天カードで決済をするという一連の流れが、そのデータ蓄積により、AIの精度が発揮され、顧客満足度をカバーしていく。より会員的組織としての色彩が強くなるが、彼らがスケールしていく要素はここにある。
だからこそ、AIによる検索・広告・推薦の精度が他社よりも一歩先を行ける。これは確かに楽天ならではの強みだ。
冷静に言えば「ようやく地ならしが整ってきた段階」
まだ“抜きん出た成果”と呼べるほどの飛躍ではない。ただ、モバイル・EC・フィンテック・AIが徐々に結びつき、一本の線になってきている手応えはある。
この点、ぼくは楽天にもっと期待したい。従来、ECは値引き合戦という色彩もなくはなかった。商品情報が一律並ぶのだから、そりゃ当然だ。でも、それは時にテンポを疲弊させてしまう。ただ値引きで売るのではなく、“つながり”で価値を生むECモデルを構築できる可能性を持っていて、そこに期待をしたいのだ。
最後に
派手さはない。でも、その代わりに“積み上げ”がある。IDベースでデータをつなぎ、AIでリーチ精度を上げ、モバイルとの親和性で顧客単価を上げていく──。それが今の楽天が描こうとしている未来だ。
この積み重ねを、次の四半期以降でどこまで“数字”にできるか。それを冷静に、でも応援する気持ちを持って、引き続き見ていきたいと思う。
今日はこの辺で。