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動画配信がテレビを超えた日──アメリカで進む「視聴の主役交代」

近年、NetflixYouTubeDisney+Amazon Prime Videoといった動画配信サービスが米国におけるメディア視聴の主役になりつつあります。これらストリーミングサービスの利用時間や加入者数は年々増加し、特に若年層を中心にテレビ離れが加速しています。また、広告ビジネスの観点でも、YouTubeなど配信プラットフォームの広告収入が拡大し、伝統的なテレビ広告市場に変化を及ぼしています。本レポートでは、米国における主要動画配信サービスの視聴時間の推移利用者数世代別のユーザー構成広告収入の動向、そしてテレビ放送・ケーブルテレビとの比較推移について、最新のデータに基づき整理します。

1. 動画配信サービスの視聴時間と利用者数の推移

 アメリカでは総テレビ視聴時間に占めるストリーミング配信の割合が、この数年で飛躍的に増加しています。Nielsenの分析によれば、2021年5月時点ではテレビ視聴時間に占めるストリーミングの割合は約26%でしたが、2024年末には43%を超えるまでに拡大しました 。これは、テレビ全体の視聴時間総量がほぼ横ばいの中で、ストリーミング視聴へ時間が移行したことを意味します。実際、2024年に米国視聴者がストリーミングに費やした時間は総計で12兆分以上と推計され、これは年間で約2,300万年分に相当し、前年2023年からさらに10%増加しています 。以下の表に主要サービスの利用者規模と視聴シェアの概況を示します。

主要配信サービスの米国における利用規模と視聴シェア(一例):

サービス

米国の主な利用者数・普及率 (2023-24年)

テレビ視聴シェア (直近)

Netflix

米国で約8,100万の加入者 。成人の約72%が利用 。

全テレビ視聴時間の約8.2% (2025年2月)

YouTube

月間利用者数は米国で2億人以上 (推定)。成人の約87%が利用 。

全テレビ視聴時間の約11.6% (2025年2月)

Disney+

米国・カナダで約4,600万加入者 (2023年時点)。

全テレビ視聴時間の約4.8% (Disney+系列合計)

Amazon Prime Video

米国の有料会員数1億5,000万以上 (Prime会員)と推計。成人の63%が視聴 。

全テレビ視聴時間の約3.5% (2025年2月)

従来のテレビ放送

ケーブル/衛星テレビ契約世帯: 約6,850万世帯 (2022年) 。世帯普及率およそ50%前後。

放送: 約21.2%、ケーブル: 約23.2% (2025年2月)

上記のように、Netflixは米国で約8千万を超える有料加入者を抱え 、YouTubeは米国成人のほぼ9割が利用するプラットフォームとなっています 。Disney+もわずかサービス開始数年で数千万規模の加入者を獲得し、Amazon Prime VideoはAmazonプライム会員(米国で1.5億人以上と推定)の多くが利用するサービスです。視聴時間の面では、YouTubeとNetflixが群を抜いており、それぞれテレビ視聴全体の1割前後を占めています。一方、ディズニー傘下(Disney+やHulu等)のストリーミング全体で約5%弱、Amazon Prime Videoは約3~4%に留まります。もっとも、こうしたストリーミング各社の合計シェア(43.5%)は既に従来のテレビ放送やケーブルテレビを上回っており、年々その差を広げています 。

2. 各サービスの世代別ユーザー構成

ストリーミングサービスの浸透度や利用スタイルには世代間で差異が見られます。一般に若い世代ほどストリーミング志向が強いものの、サービスによって特徴があります。

  • YouTube(広告型): Z世代やミレニアル世代では利用率が90%以上とほぼ普及しきっており、30代・40代でも90%前後が利用しています 。高齢層でも約65%がYouTubeを利用しており、世代を超えて幅広い支持を集めています 。これはYouTubeが無料で手軽なプラットフォームであることが影響しています。

  • Netflix(定額型): 若年~中年層に広く普及しています。ある調査では、18~29歳の72%、30~49歳の70%、50~64歳の69%がNetflixを視聴しており 、シニア層(65歳以上)でも約半数が視聴していると推定されます。Netflix視聴頻度を見ると、ミレニアル世代の25%が「1日複数回」Netflixを見ると回答しており、Z世代19%、X世代17%と続きます 。一方でベビーブーマー世代では「全く見ない」層も約半数存在し 、高齢層での浸透は限定的です。

  • Disney+(定額型): ファミリー層や若年層に人気が高く、高齢層での利用は低めです。利用者の年齢構成では25~34歳が約24.7%で最多、次いで35~44歳が19.2%を占めます。一方、**65歳以上はわずか4.7%**しかおらず 、伝統的に子供向け・ファミリー向けコンテンツが多いサービス特性が反映されています。また未成年(17歳以下)が全体の25%以上を占める点もDisney+の特徴です 。

  • Amazon Prime Video(定額型): 中高年層で相対的に強い支持を持つサービスです。他のストリーミングが若年層主体なのに対し、Prime Videoはシニア層の利用率が高く、65歳以上の視聴経験者が66%に達し、18~24歳の59%を上回るという調査結果があります 。これは、Prime VideoがAmazonの配送特典に付随するサービスであり、幅広い年齢層のプライム会員が存在すること、またNetflixやDisney+に比べ高齢層向けの一般的な映画・番組も多いことが一因と考えられます 。実際、ストリーミング全体で見ても55歳以上の視聴者割合はAmazon Prime Videoが22%と突出して高く、Disney+は10%と低いという分析もあります 。

以上のように、Z世代・ミレニアル世代ではYouTubeやNetflixの利用が日常化し、X世代もそれらを積極的に取り入れています。一方でベビーブーム世代では依然としてケーブルテレビ等の視聴も多く残りつつ、Amazon Prime Videoのようなサービスは比較的受け入れられています 。Disney+は若年ファミリー層にリーチする一方、高齢層の取り込みは限定的です。

3. 動画配信サービスの広告収入の動向

ストリーミング各社の広告ビジネスにも大きな変化が生じています。従来、NetflixやDisney+は広告抜きのサブスクリプションモデルでしたが、近年は広告付き低価格プランを導入し始めました。一方、YouTubeは広告収入が主な収益源であり、テレビ業界全体においてもYouTubeの存在感が増しています。

  • YouTubeの広告収入拡大: YouTubeのグローバル広告収入は2021年に約288億ドルに達し、その後2022年は約292億ドル、2023年には約315億ドルと再び成長しています 。2022年末には景気減速の影響で一時減収となりましたが、その後2023年通年で約4%の増収となり、2024年にはさらに10%以上の成長が予測されています 。2023年第四四半期には前年同期比+15%の増収となるなど 、広告主の動画配信への予算シフトが進んでいることが伺えます。YouTubeの年間広告売上規模(約300億ドル超)は米国の放送テレビやケーブルテレビ単体の広告収入に匹敵し、デジタル広告市場における重要な地位を占めています。

  • Netflixの広告プラン参入: Netflixは2022年11月に初の広告付きプラン(低料金)を米国などで開始しました。当初ユーザー数は限定的でしたが、その後順調に拡大しています。サービス開始から半年後の2023年5月時点で月間アクティブユーザーは全世界で約500万人に達し、広告プラン加入者の中央値年齢は34歳と比較的若い層が利用していることが明らかになっています 。さらに2024年春には広告プラン利用者が月間4,000万人に急増し、Netflixの新規加入者のうち約40%が広告プランを選択するまでになりました 。広告ビジネス面でも軌道に乗り始めており、米国におけるNetflixの広告収入は2024年に10億ドル規模を超えるとの予測もあります 。これはNetflixがパスワード共有対策や低価格プランでユーザーを拡大しつつ、広告主にもリーチを提供し始めたことを示します。

  • Disney+やその他の動向: Disney+も2022年末に広告付きプランを導入し、価格改定と組み合わせてARPU(加入者あたり収益)の向上を図っています 。Disney+単体の広告収入は未公表ですが、加入者数の多さから潜在的な広告在庫も拡大しています。またHuluは以前から広告付き低価格プランを提供しており、Disney傘下サービス全体で見ると相応の広告売上を上げています。Amazon Prime Videoも2023年以降、一部でCM挿入の試みやスポーツ中継での広告収入獲得を進めており、2024年にはPrime Videoも広告付き視聴モデルを本格導入する計画を発表しています(プライム会員向け動画への広告挿入) 。

  • 伝統的テレビ広告との比較: 米国のテレビ広告市場は近年縮小傾向にあります。米国のテレビ(地上波+ケーブル)広告費は2022年に約666億ドルでしたが、2023年には約600億ドル前後に減少したと推計されています 。特に若年層のテレビ離れにより広告主がデジタル動画(CTV/OTT)に予算を移す傾向が強まっており、2023年のコネクテッドTV広告費は約250億ドル(前年比+21%)に達しました 。2025年には米国の動画広告費全体のうち58%がストリーミングなどデジタルに投じられ、従来型テレビは42%に留まるとの予測もあります 。つまり広告収入の面でも、インターネット動画がテレビから急速にシェアを奪いつつある状況です。

4. テレビ放送およびケーブルテレビとの比較推移

ストリーミング普及に伴い、従来のテレビ視聴の相対的な地位は年々低下しています。その象徴的なデータが、Nielsen社が毎月公表している「The Gauge」レポートです。2022年に入ってからストリーミング視聴のシェアは急伸し、2022年7月にはストリーミングが全テレビ視聴の34.8%を占めてケーブルテレビ(34.4%)を初めて上回りました 。以降もその差は拡大し続けています。

図:米国におけるサービス形態別テレビ視聴シェア(2025年2月、Nielsen「The Gauge」)。ストリーミング視聴(紫色)が全テレビ視聴時間の43.5%を占め、ケーブルテレビ(緑色、23.2%)や地上波放送(オレンジ色、21.2%)を大きく上回っている 。ストリーミング内訳ではYouTube(赤)11.6%、**Netflix(赤紫)8.2%**が突出し、以下Disney+(水色、*Disney+にはHuluやESPN+視聴含む)が4.8%、Prime Video(水色)3.5%、その他(灰色)合計6.2%となっている 。その他ストリーミングにはRokuやPluto TVなど複数のプラットフォームが含まれる。

このように2025年時点ではストリーミングがテレビ視聴の最大シェアを占めていますが、その過程の推移をまとめると以下の通りです。

米国におけるテレビ視聴シェアの推移(ストリーミング vs ケーブル vs 放送):

時点

ストリーミング視聴シェア

ケーブルテレビ視聴シェア

地上波放送視聴シェア

2021年5月

約26%

約39%(推定)

約25%(推定)

2022年7月

34.8%

34.4%

約21%

2023年9月

37.5%

約30%(推定)

約22%(推定)

2024年12月

43%超

約26%

約20%(推定)

2025年2月

43.5%

23.2%

21.2%

注: Nielsenの月次レポートより抜粋。各値はその月におけるテレビ視聴全体に占める視聴時間割合(Persons2+、終日)。2021年5月は参考値(Nielsen発表より推定)。放送=地上波ネットワーク放送。

上表から、ストリーミング(配信)のシェアは2021年の4分の1程度から、わずか数年で約4割超へと急伸したことが分かります。特に2022年後半にケーブルテレビを逆転して以降、その勢いは加速しています。ケーブルテレビのシェアは2021年の約39%から2024年には20%台後半にまで低下し、3年間でシェアが約1/3減少しました。同様に地上波放送も緩やかに低下傾向にあります 。2024年夏にはストリーミングシェアが40%を超え過去最高を更新し、かつてテレビ視聴の王者であったケーブルが記録した最大シェア(40.1%:2021年6月)を上回ったことが報告されています 。

さらに世帯レベルの動向としては、ケーブルや衛星による有料テレビ契約を解約して配信のみを視聴する「コードカッティング」の拡大が挙げられます。米国の有料テレビ契約世帯数は2022年の6,850万世帯から減少を続け、2024年には非契約世帯とほぼ同数に並ぶ見込みです 。2025年には契約世帯数より非契約世帯数の方が多くなると予測され、2026年には全米人口の約41.6%がケーブル/衛星テレビを契約しない「コードカッター」になるとも推計されています 。このような急速な世帯動態の変化も、視聴時間シェアの推移に表れていると言えます。

おわりに

以上の調査から、米国の動画配信サービスは視聴行動やメディア産業の構造を大きく変革していることが明らかです。NetflixやYouTubeといった主要プラットフォームの視聴時間は年々増加し、2020年代半ばにはテレビ視聴全体の中核を占めるまでになりました。特に若い世代ほどストリーミングへの依存度が高く、従来のテレビ放送やケーブルテレビは急速に影響力を失いつつあります。広告収入の面でも、YouTubeなどデジタル動画への広告投下が伸び、Netflixのようなサブスクリプションサービスも広告モデルを取り入れる動きが進んでいます。テレビ業界では視聴者の獲得競争と収益モデルの再編が避けられず、従来メディアと新興プラットフォームの役割は今後も変化していくでしょう。今回取り上げたデータは主に2022~2025年までの動向ですが、今後もNielsenや各種調査機関のデータを追い、最新動向をウォッチすることが重要です。米国のメディア消費は引き続きストリーミング中心へシフトしていくと見られ、その影響力は一層増大していくと予想されます。

参考文献・出典リンク

  • 【5】TV Technology: 「Streaming’s TV Viewing Share Hits Record 43.5% in Feb.」(2025年3月発行)

  • 【6】Nielsen: 「The Nielsen ARTEY Awards: 2024 Streaming Unwrapped」(2025年1月)

  • 【11】Pew Research Center: 「Social Media Fact Sheet (2024)」よりYouTube利用率

  • 【16】Evoca.tv: 「Netflix Subscribers Statistics 2025」よりNetflix世代別利用状況

  • 【20】Evoca.tv: 「Disney Plus User Demographics」よりDisney+利用者の年齢構成

  • 【22】WARC: 「Amazon Prime Video outperforms among older audiences」より55歳以上の利用者割合比較

  • 【23】Advanced Television: 「Prime Video viewers skew older, wealthier」(2024年12月)

  • 【26】MarketingProfs: 「YouTube’s Ad Revenue Forecasts for 2023-24」(2023年)

  • 【31】The Verge: 「Almost 5 million people are using Netflix’s ad tier」(2023年5月)

  • 【34】Marketing Dive: 「Netflix’s ad-supported plan now has 40 million users」(2024年5月)

  • 【39】Insider Intelligence (eMarketer): 「Netflix’s ad progress」レポート(2024年9月)

  • 【40】Forbes: 「Streaming Viewership Surpasses Cable For First Time, Nielsen Says」(2022年8月)

  • その他出典: Pew Research, Statista, Nielsen “The Gauge” 各種レポートデータより.

 

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