LINEヤフー、5期連続の最高益更新──戦略事業が牽引した成長の裏側と次なる布石
2024年度のLINEヤフーは、売上・利益ともに過去最高を更新。PayPayを核とした金融事業の加速、メディア広告の底堅い成長、そしてeコマース全体の回復傾向が、グループ全体の持続的な成長基盤を支えた。注目は「戦略事業」の大躍進。その背後には、金融経済圏の拡張と、確実に投資回収へ向かう道筋があった。2025年度はIPOやAI強化など、さらなる成長への仕掛けも動き始めている──。
第1章:連結業績──増収増益で過去最高、5期連続の更新
売上収益とEBITDAの進捗
2024年度(2025年3月期)の売上収益は1兆9,174億円(前年比+5.7%)、調整後EBITDAは4,708億円(前年比+13.5%)と、いずれも過去最高を更新 。
この成長を牽引したのは、PayPayを中心とする「戦略事業」と、アカウント広告が拡大した「メディア事業」である。調整後EPSも24.9円(+11.7%)と上昇し、株主還元姿勢を示す材料となった。
第2章:セグメント別──金融が主役に。PayPay連結が利益を押し上げる
メディア事業
売上:7,316億円(+4.2%)/調整後EBITDA:2,839億円(+11.6%)。中でもアカウント広告は前年比+18.9%と好調で、有償アカウント数の増加と課金の拡大が貢献 。
コマース事業
売上:8,483億円(+2.6%)/調整後EBITDA:1,484億円(+3.6%)。ZOZO、アスクル、Yahoo!ショッピングなどが安定成長。2024年は一部事業の非連結化も進め、収益構造の最適化が図られた 。
戦略事業(PayPay等)
売上:3,412億円(+17.7%)/調整後EBITDA:515億円(+347.3%)と圧倒的な成長率。PayPay銀行、LINE Pay台湾の寄与も大きく、今後の上場準備が加速する背景となった 。
第3章:キャッシュと株主還元──1,500億円の自己株取得を発表
営業CFは5,195億円と力強く、これにより2025年5月から1,500億円規模の自己株式取得を実施。ROEの改善と資本効率の強化を目的とし、26年3月期の配当も1株あたり7円に増配予定 。
株主還元方針として、今後5年間で総還元性向70%以上を掲げ、資本政策の本気度をうかがわせる。
第4章:次期(2025年度)ガイダンス──AI・ミニアプリ、そしてPayPay IPOへ
次年度の売上収益見通しは2.1兆円(前年比+9%)、調整後EBITDAは5,000〜5,100億円(+6.2〜8.3%)、調整後EPSは25.9〜26.9円を予想しており、引き続き安定成長を見込んでいる 。
注目すべき戦略は以下の3点:
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LINE公式アカウントとLINEミニアプリのさらなるマネタイズ。
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PayPayのIPO準備を正式発表し、グループ外資金調達体制へ。
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Yahoo!やLINEのサービスに、AIエージェント機能を本格導入し始めたこと 。
参考🔍 1. 定義:AIエージェントとは?
資料中では「1人につき1つのAIエージェントが寄り添う時代へ」と定義されています 。つまり:
ユーザーの行動履歴・嗜好を学習しチャットベースで対話しながら最適な情報・行動・商品などを提案・代行するという、いわばパーソナルAIコンシェルジュのような存在。
参考🔧 2. 実装例:2025年度にすでに導入・試験しているAI機能
決算資料によると、以下のような実装が進行している :
導入領域 |
実施内容 |
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Yahoo!ショッピング |
生成AIによる「お得な日」の提案(β版) |
LINE AI |
対話型生成AIサービスを開発中、秒間3.6件のテキスト生成処理 |
カスタマーサポート |
メール作成業務の約90%を自動化 |
広告営業業務 |
情報収集プロセスを約70%短縮 |
社内業務全体 |
35件以上の業務効率化プロジェクトが進行中 |
参考🎯 3. 今後の展開(FY25以降)
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ToC向けサービスのAIエージェント化を本格始動
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LINEミニアプリやYahoo!との連携によって、日常利用の中でAIが行動を提案・サポート
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収益化は2026年度以降を見込むが、「ユーザー体験の再構築」として、戦略の柱に据えている
✅ 総じてのポイント:
これはChatGPTやLINEのBotのような「一問一答型のAI」ではなく、ユーザーの行動全体に寄り添う“パーソナライズされたAIの同伴者”です。ヤフー・LINE・PayPayなどの膨大なデータ資産を背景にした、国産巨大エージェント戦略とも言えます。
第5章:今後の注目点──PayPayの成長戦略とAIによる変革
PayPayは年間取扱高15.4兆円(+23.4%)と急成長し、EBITDAも455億円と黒字転換後、明確に利益基盤へ移行。2025年には米国上場も視野に、グローバル視点での事業展開が始まる 。
また、生成AIの導入により、Yahoo!ショッピングでのレコメンド強化や、カスタマーサポート業務の約90%自動化が進行中。業務のスリム化とUX改善の両立を目指す 。
締め:
LINEヤフーの2024年度決算は、単なる増収増益にとどまらず、「金融」と「AI」という未来の収益ドライバーがいよいよ動き始めた象徴でもある。次なる焦点は、PayPayのIPOと、AIによるサービス再構築。その成否が、LINEヤフーの“第2章”を決定づけることになるだろう。