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Amazonの本質は“進化した小売業”──2025年Q1決算に見るAWSとECの収益構造

2025年5月1日に発表されたAmazonの2025年第1四半期(1月〜3月)決算は、売上・利益ともに堅調な成長を示した。特にAWS事業の好調さが際立ち、利益面では全体の約6割を占めるまでに拡大。物販・物流ビジネスの進化とともに、AIや衛星インターネットといった新たな挑戦にも注目が集まっている。本稿では、数値の変化と事業別動向から、Amazonの現在地と次なる戦略の方向性を紐解いていく。

1. 売上総額:前年同期比9%増、為替影響を除けば10%増

2025年Q1の売上高は1,556億ドルとなり、前年同期(2024年Q1)の1,433億ドルから9%増加。為替影響を除けば+10%と、堅調な伸びを見せた。
地域別では以下の通り:

  • 北米:928億ドル(+8%)
  • 海外:335億ドル(+5%、為替調整後+8%)
  • AWS:293億ドル(+17%)

3つのセグメントの中でも、AWS(Amazon Web Services)が最も高い成長率を維持しており、企業向けクラウドサービスとしての地位を固めている。

Amazonはこの売上構成を「北米」「海外」「AWS」の3つに分けて公開しており、これは同社の根本的なビジネスモデルが**“進化した小売企業”**であることを示している。

2. 営業利益:前年同期比+20%、AWSがけん引

営業利益は184億ドルで、前年同期の153億ドルから**+20%の増益**となった。特にAWSの収益力が顕著で、セグメント別の営業利益は以下の通り:

  • 北米:58億ドル(+17%)
  • 海外:10億ドル(+13%)
  • AWS:115億ドル(+23%)

AWS単体での営業利益率は**39.5%**と非常に高く、Amazonの利益源としての存在感を強めている。

この構造を見て「Amazonはクラウド企業だ」と誤解されることもあるが、実態はむしろその逆。**利益はAWS、売上は圧倒的に北米EC(=小売)**が支えているという、分業型のハイブリッド経営が特徴である。

3. 純利益:前年同期比64%増、コスト構造の最適化が進む

純利益は171億ドル(前年同期:104億ドル)で、前年から+64%増と急拡大。

これは売上増加に加え、配送・フルフィルメント・マーケティングなど各コストの効率化が進んだことが背景にある。営業利益率(全社ベース)は前年の10.7%から11.8%に改善された。

特に注目すべきは、ECに関わるオペレーションの合理化。これにより、売上はさほど変わらなくても利益が大きく伸びている構造が成立している。

4. 図表:2024年Q1〜2025年Q1の業績推移──成長を支える「三本柱」の動向

下図は、Amazonの過去5四半期にわたる「売上高(Net Sales)」「営業利益(Operating Income)」「純利益(Net Income)」の推移を示している。四半期ごとの変化を見ることで、Amazonの事業がどのようなサイクルで成長し、どのセグメントがどの時点で収益を牽引しているのかが浮き彫りになる。

年末商戦で最大化、その後の「正常化」

まず注目したいのは、2024年Q4(ホリデーシーズン)における売上・利益のピークだ。この時期は例年、ブラックフライデーやクリスマス商戦に伴い売上が大きく伸びるため、各KPIが過去最高を記録する傾向にある。実際に、売上は約1,878億ドルに達し、営業利益も212億ドルという高水準を記録した。

一方で、翌2025年Q1は季節的な反動減が生じており、売上は1,556億ドル、営業利益は184億ドル、純利益は171億ドルと、それぞれ前四半期からは若干の減少となった。これは減速ではなく「想定通りの推移」と言える。

AWSが支える利益構造の安定

さらに重要なのは、営業利益と純利益の伸び率が前年同期と比較してそれぞれ20%・64%増加しているという事実だ。これは、AWSの利益貢献度が高まっていることと、物流およびインフラ投資の効率化が進んでいることに起因している。

Amazonは単なる小売企業ではなく、AWSという高利益率のBtoBセグメントを持つ“複合企業”としての強さを発揮しており、特にこのグラフからも、売上よりも利益が安定して上昇している点が読み取れる。

5. 図表:セグメント別売上推移──AWSの成長が全体を牽引

 

この図は、2024年Q1から2025年Q1までの5四半期における、Amazonの3つの主要セグメントの売上推移を示している。

  • 北米(North America):最も売上規模が大きく、Q4には年末商戦の影響で1155億ドルを超えるピークに到達。ただし、Q1では季節的な反動減が生じる。
  • 海外(International):緩やかな伸びだが、Q1では為替影響を差し引けば前年同期比+8%と回復基調。
  • AWS:安定的に成長を続け、Q1には293億ドルまで拡大。前年同期からの成長率は+17%と依然高い水準を維持。

このグラフからも、AWSがいかに安定した成長ドライバーであるかが一目でわかる。売上全体の約19%を占めながら、営業利益では半分以上を担っている。特にEC事業が季節変動を受けるのに対し、BtoBクラウドビジネスはより持続的・構造的な成長を遂げていることが、Amazonのバランスの良さを物語っている。

6. 図表:キャッシュフローの推移──“稼ぐ力”と“使う力”のバランスをどう見るか?

 

この図は、Amazonの営業キャッシュフロー(Operating Cash Flow)およびフリーキャッシュフロー(Free Cash Flow)の過去5四半期の推移を示している。いずれも**TTM(過去12ヶ月累計)**ベースで集計されており、短期的なブレをならした長期的な動向が見て取れる。

  • **営業キャッシュフロー(OCF)**は一貫して増加傾向にあり、2025年Q1には約1,139億ドルまで拡大。前年同期比では+15%成長を記録。
  • 一方で、**フリーキャッシュフロー(FCF)**は大きく減少し、Q1には259億ドルと前年(501億ドル)から▲48%という大幅な落ち込みを見せた。

この乖離の背景には、インフラ・設備投資の急増がある。事実、2025年Q1の設備投資額は前年よりほぼ2倍の約930億ドルに達しており、新たな物流拠点やクラウド拡張、AI向けチップインフラの構築などが含まれていると推測される。

一見、フリーキャッシュフローの悪化は懸念材料に見えるが、将来への布石と捉えれば、投資回収のフェーズが近いとも言える。今後はこれらの投資がいかに収益性へ結びつくかに注目したい。

総括

2025年Q1決算を通じて見えてくるのは、Amazonが「テック企業」への脱皮をさらに加速させているという事実だ。だがその根底にあるのは、小売業としての徹底的な現場力とインフラ整備であり、AWSやAIといった事業は、その“枝葉”として育ってきた。Amazonはあくまで「進化した小売企業」──それを裏づけるのが、決算という「事実のかたまり」なのだ。

次回のQ2決算では、これら新領域がどの程度業績に寄与し始めるのか、そして再びAWSの収益力がどこまで伸びるのかに注目したい。

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