ツルハ×イオン×ウェルシアが目指す、アジアNo.1ドラッグストア構想とは?
なぜ今、ドラッグストア業界再編なのか
2025年4月11日、イオン、ツルハホールディングス、ウエルシアホールディングスの3社が経営統合に向けた資本業務提携の発表を行った。この連携は単なる業界再編ではない。背景にあるのは、地域の健康インフラを担うべく進む社会課題への対応と、アジアを見据えたスケール戦略である。日本国内における少子高齢化と都市間格差、そしてASEAN諸国に広がる成長市場——。その双方に跨る視座がこの統合には宿っている。
全国5,600店舗、売上2.3兆円規模の巨大ネットワークへ
ツルハ(2,658店舗)とウエルシア(3,001店舗)が統合することで、国内店舗数は5,659店舗に達し、売上高は2兆3,124億円、従業員数は11万6,343人という圧倒的規模となる。これにより国内市場におけるドラッグストア業界シェアは約25%を占め、マツキヨココカラ、スギ、コスモスといった競合を抑え、断トツのNo.1に躍り出る。
イオンの流通プラットフォームを背景に、商品供給や物流網の効率化を図ることができ、今後さらに経済圏としての拡張が期待される。
アジアNo.1へ──ASEAN戦略の加速
この提携が「日本市場だけの話」で終わらない理由がここにある。統合後の3社は、ASEAN諸国への集中的な出店を通じて、アジアNo.1ドラッグストアチェーンを目指すことを明言している。
イオングループがすでに展開しているベトナム、マレーシア、インドネシアなどの現地法人と連携し、商品調達、人材育成、システム構築を共有。出店開発の初速と効率を上げる狙いだ。ドラッグストアという業態のなかで「医療×流通」の融合モデルを展開することで、現地でのヘルスケア格差の解消にも貢献する構想だ。
オンラインチャネルによる新たな接点拡大
経営統合によって加速されるのは、リアル店舗の展開だけではない。
マレーシアではネットスーパー「myAEON2go」における品揃えの見直しや、時間指定配送の精度向上が行われており、売上高は前年同期比111%と堅調に推移。さらに2024年5月には全国配送サービスを開始し、ギフトや大型家電などの需要も取り込む体制を整えている。
また、ベトナムではオンライン販売の売上構成比が5.1%まで伸び、2024年11月には「Nationwide Delivery」を導入。出店していない地域を含む全国63省中58省から注文を受け付けるなど、物理的距離を越えた生活インフラとしての機能も強化されつつある。
調剤・フード・PBを軸にしたシナジー
更に、統合による明確なシナジーのひとつが、調剤薬局事業である。ウエルシアは調剤売上2568億円(シェア3.1%)、ツルハは1259億円(シェア1.5%)を誇り、両社を合わせると売上ベースで業界トップクラスの位置づけとなる。
さらに、プライベートブランド(PB)領域においても、ツルハの「くらしリズム」、ウエルシアの「からだWelcia/くらしWelcia」を掛け合わせ、新ブランドの展開も計画中(資料p.12)。加えて、イオンの「トップバリュ」との連携により、フード&ドラッグを融合させた新しい業態づくりも視野に入る。
データマーケティングで築く1億接点の経済圏
ツルハは会員数2835万人、顧客接点5544万人、ウエルシアは会員数1386万人、接点3478万人とされる。これらを掛け合わせ、イオンも含めると総計で1億人規模のデジタル顧客接点を保有することになる。
ここに1to1マーケティングや健康アプリ連携が加われば、単なる物販にとどまらず、健康アドバイスや食生活提案といった“生活支援型サービス”へ進化する可能性も高い。
経営統合スキームと今後の展望
2025年5月にイオンがツルハ株を追加取得(19.7%→26.8%)、12月にウエルシアとツルハが株式交換を実施、翌2026年1月にイオンがTOBを実施する予定。それでもツルハの上場は維持される見込みだ。
ガバナンス体制としては、ツルハにウエルシアから取締役2名が参画予定であり、今後3社共同で中期経営計画策定に向けたステアリングコミッティも発足する。
流通が担う新しい「医療のかたち」
小売と医療の融合は、これまで「調剤併設」など点で語られてきたが、今回の統合は面として社会に作用し得る規模感と本気度がある。地方医療や健康格差が課題となる日本において、日常の中に溶け込む“もうひとつのライフライン”としての流通の力が、いま試されようとしている。