サンリオ2025年3月期Q3決算|ライセンス&直販事業の成長戦略と競争優位性
サンリオ<8136>が発表した2025年3月期第3四半期(2024年4月~12月)決算では、売上高1,047億円(前年同期比44.7%増)、営業利益410億円(同92.1%増)と驚異的な増収増益を達成しました 。ハローキティ50周年施策の成功や複数キャラクター戦略に支えられ、国内の直営店・テーマパーク事業と国内外のライセンス事業の双方が業績を牽引しています 。本記事では、この好調な決算を支えるサンリオのビジネスモデルをひも解き、他社との比較から差別化ポイントを分析します。また、デジタル領域の台頭が既存価値に与える影響や、海外市場での受容状況についても考察します。
サンリオのビジネスモデル概要:ライセンス事業と直販事業の両輪
サンリオは自社キャラクターIP(知的財産)を活用したライセンス事業と、自社で商品を販売する直販事業(店舗やテーマパーク運営等)の二本柱で収益を上げています 。
ライセンス事業では、企業(ライセンシー)にキャラクター使用権を提供し、その対価としてロイヤリティ収入を得ます。一方、直販事業ではサンリオ自身がキャラクターグッズを企画・販売したり、テーマパークで顧客に直接サービスを提供したりして収益化を図ります。
最新の決算によれば、この両輪がバランス良く機能することで会社全体の価値向上に繋がっていることが分かります。第3四半期時点でサンリオは全地域セグメント(日本、欧州、北米、南米、アジア)で増収増益を達成しており 、国内外でブランド価値と収益力が高まっています。以下では、それぞれの事業の役割と強みを詳しく見ていきましょう。
ライセンス事業:高収益モデルによる価値創造
ライセンス事業はサンリオの収益性を支えるエンジンです。ライセンス収入は製造コストを伴わないロイヤリティ収入であるため、売上に対する利益率が高い傾向があります。
実際、2024年中間期にはライセンス事業の売上構成比増加が全社の収益性向上に寄与し、営業利益を大きく押し上げたと分析されています 。ライセンス売上比率の拡大は、会社の価値(利益)をダイレクトに高める効果があるのです。
複数キャラクター戦略と安定収益
サンリオは近年、「複数キャラクター戦略」を積極展開しています。
かつてハローキティ一強だった時代から脱却し、マイメロディ、シナモロール、クロミなど多数のキャラクターを並行してプロモーションすることで、ファン層の裾野を広げています 。この戦略により特定キャラクターへの依存度を下げ、ブームの浮き沈みに左右されにくい安定収益基盤を構築しています。
事実、第3四半期にはハローキティ50周年が話題となる一方で、それ以外のキャラクター商品も人気が高まり既存ライセンシー各社による商品展開が増加したと報告されています 。多彩なキャラクター展開はライセンシーにとっても商品企画の幅を広げ、消費者の多様な嗜好に応えられるメリットがあります。
さらに、この複数キャラクター戦略は地域ごとの人気差にも対応します。例えばクロミはややエッジの効いたキャラクターとして若年層に支持され 、シナモロールは可愛らしさで子供から大人まで幅広い人気を得るなど、それぞれ異なるターゲットにリーチできます。
ライセンシーやメーカーは自社の商品ターゲットに合致するキャラクターを選びやすく、適切なコラボレーションが可能です。
「デザイン開放」による協業の柔軟性
サンリオのライセンスビジネスがユニークなのは、キャラクターデザインの柔軟性(デザイン開放)にあります。他社IPに比べ、サンリオはライセンシー各社がキャラクターのデザインアレンジを比較的自由に行える方針を取ってきました 。
例えばハローキティはコラボ先に応じて様々な衣装やアートスタイルに変身し、商品やキャンペーンごとに新鮮な魅力を放ちます。ライセンシーから見れば、キャラクターを自由にデザイン展開できることは非常に魅力的であり、アイデア次第でユニークな商品を創出できる余地が広がります 。ストーリー性が強くデザインガイドラインが厳格なディズニー等のキャラクターに比べ、この“懐の深さ”がサンリオキャラの汎用性を高めているのです。
実際、サンリオはファッションブランドや食品、ハイテク企業に至るまで幅広い業種とコラボレーションし、ハローキティを高級バッグからカスタムスニーカー、人気ゲームのキャラクターにまで登場させています 。ライセンシーにとっては、自社業界のトレンドや商品コンセプトに合わせてキャラクター表現を工夫できるため、消費者の心を捉える商品開発につながります。
高付加価値商品の展開とブランド維持
さらにサンリオは、ライセンス商品に限定品や高付加価値路線を取り入れることでブランド価値を維持・向上させています。
たとえば各キャラクターのアニバーサリーイヤーには記念コラボ商品や数量限定グッズを企画し、コレクター心を刺激しています。これにより長年のファンにも新鮮さを提供し、高価格でも購入したいと思わせる付加価値を生み出しています 。ライセンシー企業にとっても、限定コラボや高級ラインの商品展開は利益率向上と話題作りのチャンスになります。サンリオ側もブランドイメージを損なわない範囲でこうした高付加価値商品のライセンスを管理することで、「可愛い」の価値を収益に転換する巧みなビジネスモデルを確立しています 。
直販事業:ブランド体験の提供とファンエンゲージメント
直販事業(自社直営の店舗販売やテーマパーク運営など)は、サンリオブランドの世界観を直接消費者に届ける役割を担っています。
2024年のハローキティ50周年では直営ショップでの記念イベントや限定商品の投入、テーマパークでの特別ショー開催など多数の施策が実行され、大きな集客効果を上げました 。その結果、国内店舗売上やサンリオピューロランドなどテーマパークの入場者数が増加し、売上高が計画を上回る水準で推移しました 。直販事業は単なる物販収入に留まらず、顧客体験を通じてキャラクターファンを育成し、ブランド価値を高める効果があります。
テーマパークと直営店がもたらすブランド価値
サンリオが運営するテーマパーク(ピューロランドとハーモニーランド)は、キャラクターの世界観に浸れる場としてファンの聖地となっています。
テーマパーク事業自体も有料入場やグッズ販売で収益を生みますが、それ以上にブランドロイヤルティの醸成に寄与しています 。ピューロランドではハローキティやマイメロディたちと直接触れ合えるショーやグリーティングが行われ、来場者の愛着心を一層深めます。
こうした体験価値はその後のグッズ購入やライセンス商品の売上にも波及し、リピーター創出による長期的な収益源となります。
直営店(サンリオショップ)もまた重要です。店舗ではキャラクター毎の専門コーナーや限定グッズを用意し、ファン同士が交流できる場にもなっています。近年では海外からの観光客がサンリオショップに足を運び、大量購入する姿も見られます 。このようにリアルな場での接点を持つことで、オンライン上では得られないブランド体験を提供し、「またサンリオの商品が欲しい」という熱量を維持することができます。
ライセンシーとの棲み分けと相乗効果
直販事業を手掛けるキャラクター企業の場合、ライセンシーから「自社と競合するのではないか」という不安が生じることがあります。
しかしサンリオは、自社直販とライセンス供与先の商品カテゴリや市場を巧みに棲み分け、競合関係の発生を避けています 。実際の売上構成を見ると、日本国内ではサンリオ直販(物販)事業の比率が高くライセンス収入は一部に留まる一方、海外市場ではライセンス事業が主力となっています 。
国内では自社ショップで文具や小物、雑貨などを中心に展開し、大量生産が必要なアパレルや地域限定品などはライセンシーに任せる、といった具合に棲み分けがなされています。これによりサンリオとライセンシーが「パイの奪い合い」ではなく「市場全体の拡大」に向け協力できる体制になっているのです。
例えば、サンリオ直営店では最新キャラクターのぬいぐるみや文具セットを販売しファン獲得に努め、その人気が出ればライセンシー各社からアパレルや食品等への商品化オファーが増える、といった好循環が生まれます。
ライセンシー企業にとっては、サンリオ自身が市場を活性化し需要を創出してくれるため、自社商品の売上拡大につながります。また人気投票イベントやコラボカフェの開催など、直販ならではの施策でキャラクターの話題性を継続喚起することも、ライセンス商品の売れ行きを下支えする重要な要素です。
ディズニーやサンエックスとの比較:キャラクタービジネスの差別化ポイント
キャラクターIPビジネスの成功例として、サンリオと並びディズニーやサンエックスがしばしば引き合いに出されます。各社はそれぞれ異なる強みと戦略でキャラクター事業を展開しており、比較することでサンリオの独自性が浮き彫りになります。
ディズニーとの比較:物語とキャラクターの違い
ディズニーは映画やアニメーションといった物語コンテンツを源泉としてキャラクター展開するビジネスモデルです。ミッキーマウスやディズニープリンセス、マーベルヒーローなど、豊富なストーリー背景を持つキャラクターを世界規模で展開し、映画の興行収入や配信事業、テーマパーク入場料といった直接収入と、グッズのライセンス収入の双方で莫大な売上を上げています。
いわば「コンテンツドリブン型」のキャラクタービジネスと言えます。
一方サンリオは、キャラクターそれ自体の可愛らしさやコンセプトを前面に出した「デザインドリブン型」と言えます。
ハローキティを筆頭に、サンリオキャラクターの多くは詳細な物語設定を持たず、グッズそのものから人気が生まれた存在です。例えばハローキティは1974年に小さなコインケースのイラストから誕生し、そのシンプルな可愛さが口コミで広がって国境を超えた人気者になりました 。キャラクター自体がストーリーを必要としない分、あらゆる商品カテゴリーにフィットしやすく、ライセンス展開の自由度が高い点がディズニーとの大きな違いです。
この違いは数字にも表れています。ハローキティは累計800億~890億ドル(約12~13兆円)もの総収益を世界でも稼ぎ出し、歴代メディアミックス売上ランキング第2位につけています 。ミッキーマウスやスターウォーズといったディズニー関連コンテンツをも上回る規模でありながら、その収益の約99.4%が商品ライセンスによるもので占められている点が特筆されます 。
つまり映像作品に頼らずグッズだけで世界2位に登りつめたのがハローキティというキャラクターの強みであり、サンリオのビジネスモデルの成功を裏付けています。「物語」ではなく「デザインとコンセプト」で勝負するサンリオは、ディズニーとは異なる土俵でブランド価値を築いているのです。
もっとも、ディズニーも商品デザインに関しては厳格なブランド管理の一方で近年は柔軟さも見せています。ファッションブランドとのコラボでミッキーが抽象アート風のデザインになったり、スターウォーズのキャラが和風アレンジされたグッズも登場しています。
しかし物語がある以上、キャラクターの性格や世界観を崩さない範囲でのコラボに留まるケースが多いです。その点、ハローキティは「無口で優しい女の子の猫」というシンプルな設定ゆえ、場面に応じて自由にキャラ付けできる懐の深さがあります。ライセンシー企業から見ると、ディズニーIPは確立された世界観に沿った商品企画が求められるのに対し、サンリオIPは比較的クリエイティブな発想を盛り込みやすいと言えるでしょう。
サンエックスとの比較:国内キャラクタービジネスの戦略差
サンエックスはリラックマやすみっコぐらし等で知られる日本のキャラクター企業です。サンリオと同じくオリジナルキャラクターの創出と版権ビジネスを行っていますが、その戦略と規模には明確な違いがあります。
まず企業規模を見ると、サンリオの2022年3月期連結売上高が約527億円 であったのに対し、サンエックスは非上場企業であるため正確な売上公開はありません。ですが、資本金や従業員数から察するに事業規模はサンリオの数分の一程度と見られます 。
サンエックスは主に文具・雑貨の自社企画製造販売と、キャラクターのライセンス提供を事業内容としています 。ある意味で「小さなサンリオ」的なビジネスモデルですが、サンリオほどの直営店舗網や大型テーマパーク事業は持っていません。
キャラクター戦略にも違いがあります。サンエックスのヒットキャラクターは、リラックマ(2003年登場)やすみっコぐらし(2012年登場)など、「癒し」「シュールさ」を前面に出したゆるい世界観が特徴です。
これらはSNS時代に大人の心も掴み、一時的なブームに留まらず安定した人気を保っています。近年では「すみっコぐらし」が映画化されるなどメディアミックス展開も見られますが、基本的にはグッズ展開主体です。
サンリオも近年は癒し系のシナモロールなどが人気上位に来ていますが、伝統的にはもう少しポップで明るい「ザ・キャラクター」らしい路線(ハローキティやポムポムプリンなど)で勝負してきました。テイストの違いはあるものの、消費者の日常生活に溶け込むキャラクターグッズという点で両社は共通しており、日本のキャラクタービジネスを二分する存在です 。
両社の大きな差別化要因は、市場展開のグローバル度合いでしょう。
サンリオが130以上の国と地域で5万点もの商品を毎年展開する世界企業であるのに対し 、サンエックスの展開は主に日本国内が中心です。ただしリラックマやすみっコぐらしも海外で徐々に認知されつつあり、特にアジア圏では一定のファン層を持っています。
今後サンエックスが海外ライセンスを強化していく可能性もありますが、既に各国に拠点を持ち国際ライセンシー網を築いているサンリオは一日の長があると言えます。ライセンシー企業としては、サンリオキャラは海外展開まで視野に入れた商品化が可能である一方、サンエックスキャラは国内市場に集中した企画で勝負しやすいといった使い分けが考えられます。
デジタル領域が既存価値に与えるインパクト
近年、キャラクタービジネスにおいてデジタル領域の活用は不可欠となっています。サンリオも例外ではなく、若手CEO辻朋邦氏の下でデジタル戦略を強化しつつあります 。
デジタルマーケティングとファン層拡大
まず注目すべきはデジタルマーケティングによるブランド再活性化です。SNS全盛期に合わせてサンリオは公式InstagramやTikTok、YouTubeチャンネルでの情報発信を強化し、ライブ配信イベントやインフルエンサとのコラボ企画、ファン参加型コンテンツなどを積極的に展開しました 。
その結果、オンライン上のエンゲージメントが飛躍的に向上し、新世代の若いファン層を開拓することに成功しています 。かつてサンリオ離れしていた10代後半~20代前半層が、「映える」キャラクターグッズや動画コンテンツを通じて再びサンリオに関心を寄せるようになりました。
ライセンシー企業にとっても、デジタル上で盛り上がったキャラクターは商品販売に直結しやすいメリットがあります。SNSで話題のデザインや映像コラボは瞬時に拡散し、リアル店舗に来られない層にもリーチできます。
実際、サンリオはオンライン上で人気が再燃したキャラクター(例えばクロミなど)をタイムリーに商品化し、ヒットにつなげています。デジタル時代のファン動向データを商品企画にフィードバックするスピード感が、既存の価値に上乗せする形で売上を伸ばす原動力となっています。
デジタルコンテンツと新たなライセンス機会
また、デジタル領域そのものが新たなライセンス機会を生んでいます。具体例としては、ゲームやアプリとのコラボレーションがあります。サンリオは人気スマホゲームの世界観を自社キャラで再デザインする試みを行っており、2024年には日本でブームとなったパズルゲーム「スイカゲーム」のキャラクターをサンリオ風にアレンジしたLINEスタンプを発売しました 。
これはゲーム側のIPとサンリオのデザイン力を掛け合わせたコラボ商品の好例で、デジタル発コンテンツのファンをサンリオファンに取り込む効果も期待できます。今後も人気ゲームへのキャラクター出演(例:某有名格闘ゲームにハローキティがスキンとして登場等)や、逆にサンリオキャラを題材にしたゲーム開発など、デジタル分野のクロスオーバー展開が考えられます 。
ライセンシー企業にとってはゲーム会社やIT企業との三者提携による新商品企画など、コラボの幅が広がるでしょう。
さらに近年話題のNFT(デジタル資産)やメタバース領域も見逃せません。サンリオは2022年に米国企業と提携しハローキティのNFTデジタルコレクションを展開するプロジェクトを発表するなど、新技術への挑戦も始めています 。
NFTは市場の変動リスクもありますが、キャラクターの新たなマネタイズ手段として注目されています。ただ、ファン層によってはデジタル所有に抵抗感もあるため、既存のブランド価値を毀損しない形で慎重に進める必要があります。この点、サンリオは伝統と革新のバランスを取りながら模索を続けている段階と言えるでしょう 。
最後にEC(電子商取引)についても触れておきます。サンリオ公式オンラインショップや各国のECプラットフォームでのグッズ販売拡充は、地理的ハンデを超えてファンに商品を届ける手段として重要性が増しています。
特にコロナ禍を経てオンライン購入が一般化した現在、国内外のライセンシー商品もネットで直接購入されるケースが増えました。メーカーにとっては店頭展開だけでなくオンライン映えする商品写真やレビュー施策といったデジタルマーケティング要素も商品価値の一部になっています。サンリオキャラの持つ可愛さはSNSや商品ページ上でも視覚的に伝わりやすいため、デジタル空間での販売促進とも相性が良いと言えます。
海外市場での展開:地域ごとの受容と背景
サンリオは創業当初から海外展開に力を入れており、現在では130以上の国と地域でビジネスを展開しています 。第3四半期決算においても、重点地域と位置づける北米と中国でライセンス事業が好調で、大幅な増収増益となったと報告されています 。では、海外のどの地域でサンリオキャラクターが受け入れられているのか、その背景には何があるのでしょうか。
北米:クロスオーバー戦略と世代を超えたファン
北米(米国・カナダ)市場は、ハローキティが1970年代後半に進出して以来の重要地域です。特に米国では「キティ・ブーム」が幾度か起こりました。
最初のブームは1980年代、子ども向けキャラクターとしての人気。そして2000年代初頭にはパリス・ヒルトンなどセレブがハローキティグッズを愛用したことで大人の間でもブームとなり、サブカルチャーアイコン的な地位を得ました。現在では親子二代でハローキティファンというケースも珍しくなく、クロスジェネレーションな支持を獲得しています。
サンリオは北米でのブランド維持のため、クロスオーバー戦略を積極活用しました。現地の有名キャラクターやブランドとのコラボ(例:ハローキティとスーパーマリオのコラボ商品、Hello Kitty × DCコミックスなど)、アニメショップ・コミコンへの出展、ハローキティカフェの期間限定オープンなど、多方面にキャラクターを露出させています。
2009年にLAで開催されたハローキティ35周年記念展「Three Apples」には世界中のアーティストがキティを題材に作品を出展し、大盛況となりました 。こうしたアートやファッションと融合した展開が「キャラクター=子ども向け」というイメージを覆し、北米の若年層・大人層にもサンリオファンを増やしたのです。
背景には、日本発の“Kawaii”文化への興味関心が北米で広まったこともあります。ハローキティはまさにKawaii文化の象徴であり、「可愛いは正義」という価値観がポップカルチャーとして受け入れられたことで、キャラクターグッズが自己表現の一部として定着しました。ライセンシー企業にとっては、北米市場でサンリオキャラを用いることは**「日本のカワイイ」を売りにできる**という強みになります。現地消費者のノスタルジーやコレクション欲求も刺激しやすく、安定した需要が期待できるでしょう。
中国・アジア:急成長する市場とローカル戦略
中国をはじめとするアジア新興市場は、近年サンリオが特に注力している地域です。中国では経済成長とともに中産階級が台頭し、キャラクター消費に惜しみなく支出する若者も増えています。サンリオはこれを捉え、現地法人の設立やEコマース展開、さらには現地インフルエンサーとのコラボなど精力的にブランド浸透を図ってきました 。
その成果は数字に表れています。北米と並んで中国でのライセンス事業がサンリオのグロースドライバーとなっており、2024年4-12月期でも中国市場の売上・利益は大幅増となりました 。背景には、中国の若年層における「萌え(メン)文化」ブームがあります。
日本のカワイイ文化に影響を受けたこの潮流に、ハローキティや双子のキキララ(リトルツインスターズ)などの柔らかいキャラクターはぴったり合致しました。加えてサンリオは中国版SNS(微博や小紅書など)で公式発信を行い、現地ファンコミュニティを育成しています。人気の中国人KOL(キーオピニオンリーダー)がサンリオキャラのファッションやガジェットを紹介するなどして話題を作り、それが商品売上につながる好循環が生まれています 。
また、中国本土や香港ではハローキティが日本観光の親善大使に起用されるなど公式な場で認知されてきた歴史もあります 。
政府レベルでのお墨付きはブランドへの安心感を与え、模倣品が多い市場において本物のサンリオ商品を選ぶ動機にもなっています。さらに中国・アジアではサンリオ公式の大型テーマパーク開設も進められており、2015年に中国・安吉にハローキティパークが開園したのに続き、海南島(三亜)でも新テーマパーク計画が進行中です 。これら現地リゾートとの提携は、サンリオキャラを実物大で体験できる場を提供し、一層のファン獲得につながるでしょう。
他のアジア地域でも、台湾や香港で根強い人気が昔からあり、東南アジアでもシンガポールやフィリピンなどでキャラクターカフェやショップ展開が見られます。背景には、アジア圏での日本文化に対する親和性や、キャラクターを通じた癒し需要があります。例えば、忙しい都会生活の合間にデスクでキティちゃんグッズが癒しを与えてくれる、といった現象は東京だけでなくソウルやバンコクでも共通です。こうした日常へのキャラクター浸透こそがサンリオの武器であり、海外でもローカライズしつつ展開することで各地域固有のファン層を開拓しているのです。
欧州・その他の地域:文化融合とニッチ戦略
欧州では1970年代からサンリオが進出し、イギリスやドイツを中心に展開してきました。欧州の消費者は日本のキャラクターに比較的早くから馴染んでおり、1980年代にはハローキティが子ども向け雑誌の付録になるなど一定の人気がありました。
欧州市場で特徴的なのは、高級ブランドとの協業です。例えばイタリアのドルガバ(D&G)がハローキティとコラボしたアクセサリーを出すなど、ファッションの本場と組んでカワイイ文化を洗練させて届ける戦略が取られました。欧州の一部富裕層には「キティ=高級可愛い」のイメージもあり、限定コレクションは即完売することもあります。
他方で欧州全域でディズニーなど競合キャラクターの存在感も大きく、サンリオはニッチな立ち位置を保っています。2011年にサンリオが英国発のキャラクター「Mr. Men Little Miss」(ミスターメン&リトルミス)を買収したのも、欧米市場強化の一環でした 。
現地発IPとのシナジーを模索しつつ、サンリオ流のライセンスノウハウを注入することで新たな市場開拓を図っています。
中南米やオセアニアでもハローキティをはじめサンリオキャラは知られていますが、市場規模は北米・欧州・アジアに比べ小さめです。ただブラジルやメキシコではハローキティが長年親しまれており、文具やアパレルが定番商品として根付いています。
これら地域では現地パートナー企業との提携が肝心で、サンリオは各国のライセンシーに販売を任せつつ、グローバルなブランド統一感を保つよう管理しています。
まとめ:ライセンシー視点で捉えるサンリオの価値向上策
サンリオの2025年3月期第3四半期の好調な業績は、ライセンス事業と直販事業という両輪が相乗効果を発揮し、国内外でブランド価値と収益を飛躍的に高めた成果でした。
ライセンス事業は高利益率かつ多彩なキャラクター展開で安定収益源となり、直販事業はファンとの直接接点を創出してブランド熱を維持し、それが再びライセンス商品の需要を押し上げる好循環を生んでいます。この構造はディズニーやサンエックスとも異なるサンリオ独自の強みであり、「モノ消費」と「コト消費」の両面でキャラクターの価値を最大化するモデルと言えるでしょう。
ライセンシーやメーカーの皆様にとって、サンリオの戦略から得られる示唆を以下に箇条書きで整理します。
• 多キャラクター展開でリスク分散と市場拡大:一つのIPに頼らず複数キャラを展開することで、トレンドの波に左右されにくくなります。自社商品企画でも、サンリオのようにラインナップを豊富にし多様な顧客ニーズに応えることが重要です。
• ライセンサーとの協業ではデザインの柔軟性を活かす:サンリオの“デザイン開放”に見られるように、ライセンシーはキャラの魅力を引き出すクリエイティブ提案で付加価値を創出できます。他社IPでも企画段階から積極的にアイデアを出し、コラボ商品の独自性を高めましょう。
• 直営チャネルとライセンス商品の棲み分け:もし自社で直販も行う場合は、サンリオのようにライセンシーと競合しない商品カテゴリ戦略を検討しましょう。自社イベントやEC限定品でブランドファンを盛り上げつつ、市場全体を拡大する視点が大切です。
• デジタル活用でファンとの接点強化:SNSでの発信やオンラインイベントを通じてブランド体験を提供し、ファンコミュニティを育てることが商品の売上に波及します。データ分析により人気の兆しを捉えたら即商品化につなげるなど、デジタル時代のスピード感を持ちましょう。
• グローバル市場の文化に対応:地域ごとの嗜好や文化に合わせたローカライズも必要です。北米向けにはポップアート的アプローチ、中国向けには現地SNS施策、といった具合にライセンス戦略も地域適応させることで、キャラクターの潜在力を最大限発揮できます。
旺盛なキャラクター需要とデジタル化する消費環境の中で、サンリオは伝統的な強みを活かしつつ柔軟に戦略をアップデートしています。ライセンシー・メーカー各社もこの動向を実務に取り入れ、自社の商品展開やコラボ企画に活かすことで、共に市場を盛り上げていけるでしょう。
サンリオの成功事例は、キャラクタービジネスに関わる全ての企業にとって価値向上のヒントとなるはずです。
今日はこの辺で。