ウォルト・ディズニー社 2025年度第1四半期決算分析 – IPビジネス動向と競合比較
ウォルト・ディズニー社(The Walt Disney Company、以下ディズニー)は直近の決算発表で、自社の幅広いIPビジネス(映画、テーマパーク、ストリーミングなど)が堅調に推移していることを示した。映画スタジオの大型ヒット作やテーマパーク事業の記録的な収益、そしてストリーミング部門の損益改善が確認されており、エンターテインメント業界全体の動向を映し出す内容となっている。主要競合であるNetflixやユニバーサル(コムキャスト)、ワーナー・ブラザース・ディスカバリー各社の動向と比較しながら、ディズニーの最新業績と今後の展望を分析する。
最新決算の業績概況
ディズニーの2025年度第1四半期(2024年10月~12月)の決算では、増収増益となった。売上高は247億ドルと前年同期比5%増加し、税引前利益は27%増の37億ドルに達している。希薄化後1株当たり利益(EPS)も前年の1.04ドルから1.40ドルへと35%伸び、営業セグメント合計の営業利益は51億ドルで前年同期比31%増を記録した。前年度(2024年度通期)も売上高914億ドル(前年比+3%)と緩やかな成長ながら、税引前利益は59%増の76億ドルと大幅な増益を達成しており、直近四半期はその好調な流れを引き継いだ形だ。
特にストリーミング事業の収支改善が顕著で、第1四半期にはディズニーのストリーミング部門(Disney+やHuluなど)の営業利益が約2億9,300万ドルの黒字となり、大幅な損失を計上していた前年から劇的な改善を示した。一方で、為替やハリケーンなどの一時要因も業績に影響を及ぼしており、後述するテーマパーク部門では自然災害や新規施設準備費用による収益押し下げも見られる。
IP事業別のパフォーマンス
映画・コンテンツ事業
ディズニーの映画スタジオ部門は、近年低迷していた作品もあったものの、2024年後半に相次いで公開された大型IP作品の成功によって業績を大きく押し上げた。ピクサーの続編『インサイド・ヘッド2』やマーベルのR指定ヒーロー映画『デッドプール&ウルヴァリン』、ディズニー長編アニメの続編『モアナ2』といった話題作が世界的な大ヒットを記録し、それぞれ世界興行収入が10億ドルを超える成果を収めている。特に『インサイド・ヘッド2』は全世界で約17億ドルに迫る興行収入を達成し、史上最高のアニメ映画興収を樹立した。
一方で、新規IP作品の課題も見られた。例えばマーベル作品『ザ・マーベルズ』やディズニーアニメ映画『ウィッシュ』は期待ほど振るわず、フランチャイズに属さないオリジナル作品の集客に苦戦する様子もうかがえる。しかし、豊富な人気IP資産を有するディズニーはヒット作で不振を補い、映画興行収入において2024年は競合他社を圧倒する結果となった。
テーマパーク&リゾート事業
テーマパーク(パーク&エクスペリエンス)部門は、パンデミック後の需要回復を追い風に2024年度に記録的な業績を上げた。2024年度通期のパーク&エクスペリエンス部門の売上高は341億ドルと前年比5%増加し、過去最高水準に達している。営業利益も通年で約92億7,200万ドルとなり、前年度から増益となった。
直近の2025年度Q1でも、パーク部門全体の営業利益は31億ドルと前年並みの高水準を維持している。この四半期はハリケーン直撃と新クルーズ船準備という特殊要因があり、フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドなど米国内パークの営業利益は前年同期比5%減だった。一方、国際部門は好調で、上海やパリなどの海外パークは第1四半期に前年同期比+28%の大幅な営業増益を達成した。
ストリーミング(DTC)事業
ストリーミング(DTC:ダイレクト・トゥ・コンシューマー)部門では、Disney+(ディズニープラス)を中心に着実な転換が進んでいる。Disney+は2019年のサービス開始から急速に会員数を伸ばしてきたが、昨今は成長が鈍化し契約者数の頭打ちが課題となっていた。直近の2024年末時点でDisney+とHuluを合わせたグローバル契約者数は1億7,800万人強となっており、前年からの伸びは限定的である。
こうした状況を受け、ディズニーはARPU(ユーザー単価)の向上と費用削減に注力し、ストリーミング事業の収支改善を図っている。実際、広告付き低価格プランの導入や既存プランの値上げ効果、コンテンツ制作費の見直しなどが奏功し、2024年Q4にディズニーのストリーミング部門は初めて黒字化を達成した。このトレンドは2025年度Q1にも継続し、エンターテインメント系DTC(Disney+やHulu)の営業利益は2億5,300万ドルの黒字となっている。
主要競合との比較
Netflix(ストリーミング専業)
Netflixはディズニーにとってストリーミング分野最大の競合相手である。その有料会員数は世界3億人超と群を抜いており、2024年末時点で約3億1,600万人に達した。
ユニバーサル(NBCユニバーサル/コムキャスト)
ユニバーサルはディズニーにとってテーマパークと映画の両面で主要な競合だ。
ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(映画・ストリーミング)
ワーナー・ブラザース・ディスカバリー(WBD)は、2022年にワーナーメディアとディスカバリーが合併して誕生したメディア大手である。
今後の見通しと業界トレンド
ディズニーは「最強のIPポートフォリオ」を軸にした統合戦略でエンターテインメント業界をリードしている。今後もディズニーが創り出すコンテンツと体験が世界中のファンを魅了し続けるとともに、競合各社との切磋琢磨がエンターテインメント業界全体の発展を促していくだろう。
参考文献
• ディズニー決算発表資料(2024年Q4・通期および2025年Q1)
• Netflix 2024年Q4業績報道
• NBCユニバーサル(コムキャスト)2024年Q4テーマパーク事業実績
• 2023年映画興行成績(グローバル)
• ワーナー・ブラザース・ディスカバリー決算情報
• ディズニーによるパーク事業投資計画発表