エスティーローダ、業績低迷と今後の戦略
世界的な美容製品のリーダーとして知られる企業エスティーローダー。ただ、2024年度は苦しい年となりました。売上や利益が減少し、中国市場での消費者センチメントの低迷やアジアのトラベルリテール市場の不振が影響しました。しかし、同社はこの難局を乗り越えるための新たな戦略を打ち出し、今後の成長を見据えた取り組みを進めています。
2024年度業績の振り返り
エスティーローダーは、2024年度の年間売上高が156億ドルで、前年から2%減少しました。これは、中国本土のプレステージビューティー市場の低迷や、アジアのトラベルリテール市場の低調な売上によるものです。特に2024年度上半期の業績が悪化し、在庫の調整や低いコンバージョン率が要因となりました。
トラベルリテール市場の低迷
ちなみに、トラベルリテール市場とは、空港、クルーズ船、国際駅、免税店など、旅行者が利用する場所で展開される小売業を指します。特に国際空港内の免税店やラグジュアリーブランドショップがこの市場の代表的な例です。トラベルリテールは、主に旅行者をターゲットにしており、旅行者が出発前や到着時に購入する商品の販売を行っています。
この市場では、化粧品、香水、アルコール、タバコ、ファッションアイテム、アクセサリーなどが主要な商品カテゴリであり、エスティーローダーのような美容製品メーカーにとって重要な販路の一つです。トラベルリテールは、高い購買力を持つ旅行者にリーチできるため、企業にとっても収益の大きな源となります。しかし、旅行者の流動性や消費者の購買行動に大きく依存するため、市場の変動が企業の業績に直接影響を与えることがあります。
1. 中国本土での消費者センチメントの低迷
中国市場は、トラベルリテール市場にとって非常に重要なエリアです。しかし、最近の中国本土における経済の減速や消費者の購買意欲の低下が影響し、全体的な消費者センチメントが弱まっています。これにより、中国人旅行者が海外での消費を控える傾向が強まり、特に高額なプレステージビューティー製品の販売が減少しています。
2. アジアのトラベルリテール市場の低迷
アジアのトラベルリテール市場全体も低迷しており、特に中国人観光客をターゲットにした免税店などが打撃を受けています。これは、主に中国本土からの旅行者数が減少したことと、旅行者がかつてほど免税店での消費を行わなくなったことが影響しています。旅行者の消費が宿泊や体験型のサービスにシフトする傾向も見られます。
3. 在庫調整による影響
エスティーローダーを含む多くのブランドや小売業者は、2024年度の前半に在庫の過剰を解消するために、大規模な在庫調整を行いました。この結果、一時的にトラベルリテール市場向けの商品出荷が減少し、売上が抑制されました。
4. パンデミック後の旅行パターンの変化
COVID-19のパンデミック後、旅行者の数が増加し始めたものの、以前の水準にはまだ達していません。また、旅行パターンや消費者行動が変化しており、かつてのような免税店での消費が戻ってきていないことも、トラベルリテール市場の低迷につながっています。
これらの要因が組み合わさって、トラベルリテール市場全体が減少しており、エスティーローダーのような企業にとっても売上に悪影響を与えています。
純利益も減少
同社の純利益は3億9000万ドルで、前年の10億1000万ドルから大幅に減少しました。これにより、1株あたりの利益も大幅に減少し、前年の2.79ドルから1.08ドルに落ち込みました。また、特定の無形資産の価値が減少したことにより、企業全体の税率も上昇し、影響を受けました。
事業別・地域別の業績
2024年度の業績を部門別に見ると、スキンケア部門は売上が3%減少し、主に中国本土やアジアのトラベルリテール市場での低調なパフォーマンスが影響しました。メイクアップ部門は1%の減少に留まり、特にEMEA(欧州、中東、アフリカ)市場やラテンアメリカでの成長が貢献しました。一方で、フレグランス部門は2%の成長を遂げ、特にラグジュアリーブランドの需要が引き続き高かったことが要因です。
地域別では、アメリカ大陸での売上は前年並みで、特にラテンアメリカ市場での成長が顕著でした。しかし、アジア・パシフィック地域では中国本土の消費者センチメントの低迷が影響し、売上が6%減少しました。
今後の戦略と見通し
エスティーローダーは、2025年度に向けて、新たな戦略を展開する計画です。特にスキンケア市場の再活性化、高級フレグランスの成長ドライバーを活用し、より迅速に成長チャンネルを活用することを目指しています。また、新しい消費者層の獲得を促進し、既存顧客の維持にも力を入れています。
加えて、同社はコスト構造の最適化と組織の簡素化を図り、利益の回復と成長を推進するための「利益回復と成長計画(PRGP)」を実施しています。この計画は、2025年度から2026年度にかけて11億ドルから14億ドルの運営利益純削減を見込んでおり、その一部は2025年度中に実現される予定です。
中国市場とアジアトラベルリテールへの懸念
中国本土やアジアのトラベルリテール市場の低迷は、エスティーローダーの2025年度の業績にも影響を及ぼすと予想されています。しかし、同社はこの市場におけるシェア拡大を図り、長期的な成長を目指すとしています。一方で、北米市場や他の地域では、成長が見込まれており、特にAmazonのプレミアムビューティーストアなどの勝利チャンネルを活用した売上増加が期待されています。
結論
エスティーローダーは、2024年度において業績の低迷を経験しましたが、新たな戦略と取り組みにより、2025年度以降の成長と利益回復を目指しています。市場の厳しい環境にもかかわらず、同社はその強力なブランド力と革新的な製品ラインナップを活用し、競争力を維持するための努力を続けています。